年金

公的年金の定期健康診断~2024年財政検証を振り返る

財政検証は、公的年金の定期健康診断といわれ、5年に1度実施されます。今回は、財政検証について確認するとともに、2024年に行われた財政検証の概要を振り返っておきましょう。

原 佳奈子

執筆者:原 佳奈子

年金入門ガイド

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公的年金の財政方式と財政検証

日本の公的年金の財政については、現在の現役世代が納めている保険料が、現在の高齢者世代が受給している年金の主な財源となっています。これは「賦課方式」といわれます。賦課方式では、少子高齢化が進むと現役世代の負担が増加し、また、保険料を主とする公的年金の収入と年金給付である支出とのバランスが取れなくなる可能性が指摘されていました。そこで、今から20年前の2004年に改正があり、現在の公的年金の財政方式においては、現役世代の負担をこれ以上増加させないために、年金保険料(率)はすでに上限で固定されており、その固定された財源の範囲内で給付水準を調整することで、長期的に給付と負担のバランスを取る仕組み(「マクロ経済スライド」)が導入されています。

財政検証は、少なくとも5年ごとに行われ、長期にわたって給付と負担のバランスが取れているかを確認します。主に、財政見通しの作成を行い、年金財政の健全性を検証することになっています。

財政検証の諸前提

財政検証は、年金財政に影響を与える要素となる将来の社会・経済状況について、さまざまな前提条件から将来の試算を行い検証します。公的年金は賃金や経済に連動する仕組みとなっているため、不確実な将来については複数のケースを設定して幅広く解釈する必要があります。

財政検証で重要な前提となるのは、「人口」「労働力」「経済」の3つです。それぞれ、専門家が客観的に設定することになっています。「人口」については、出生率と死亡率について、高位・中位・低位の3通りが設定されています。

「労働力」についても、①労働参加進展シナリオ、②労働参加漸進シナリオ、③労働参加現状シナリオの3通りが設定されています。

さらに、「経済」の前提については、今回は、労働力の前提と組み合わせて4つのケースが設定されました。具体的には、①高成長実現ケース(労働参加進展シナリオに対応)、②成長型経済移行・継続ケース(労働参加進展シナリオに対応)、③過去30年投影ケース(労働参加漸進シナリオに対応)、④1人当たりゼロ成長ケース(労働参加現状シナリオに対応)となっています。

財政検証の試算結果の概要

財政検証の試算結果については、マクロ経済スライドの調整の終了時期とそのときの所得代替率が示されます。「所得代替率」とは、その時の受給世代の夫婦の年金額が、その時の現役世代の手取り収入額の何%に当たるかを示すものです。所得代替率は給付水準が示され、50%を上回ることとされています。

例えば、図表1の上から2つ目の「成長型経済移行・継続ケース」のもとでは、最終的な「所得代替率」は57.6%と比較的高水準を維持できる結果となりました。また、上から3つ目の「過去30年投影ケース」のもとでは、最終的な「所得代替率」は50.4%とこちらも目標としている50%を上回る結果となりました。
第16回社会保障審議会年金部会資料より

第16回社会保障審議会年金部会資料より

なお、財政検証においては、給付水準と共に年金額がどうなるかということを確認しておくことも必要です。財政検証ではモデル年金の見通しで示されますが、年金の額については、物価上昇率で2024年度に割り戻した実質額で示されます。

図表2の「成長型経済移行・継続ケース」では、実質賃金上昇率は1.5%と高い前提となっているため実質賃金の上昇と共に年金の実質額も増加します。

一方、「過去30年投影ケース」では、実質賃金上昇率の前提が0.5%となっているため、報酬比例部分(比例)については、マクロ経済スライドの調整期間の終了後は実質賃金の上昇に伴って年金の実質額も増加していますが、基礎年金部分(基礎)は調整期間が長くなっていますので、このケースでは、基礎年金部分については、所得代替率だけでなく年金の実質額も低下することが確認されました。
第16回社会保障審議会年金部会資料より

第16回社会保障審議会年金部会資料より

また、今回の財政検証では、世代ごとの年金額の将来見通しの試算が初めて行われ、モデル年金では分からない実態が示されたといえます。その中では、若い世代ほど厚生年金の加入期間が長くなり、年金額の上昇要因となることが示されました。また、今回の財政検証では、5年前の前回の財政検証と比べて将来の給付水準が改善されています。その主な要因としては、高齢者や女性の就労参加が進んだことなどが挙げられています。

将来の一人ひとりの年金、そして制度としての公的年金を持続可能なものとし充実させていくためには、労働参加のさらなる拡大と安定した経済成長が重要であるということが、今回の財政検証の全体の結果から示されたといえるでしょう。

【参考】
第16回社会保障審議会年金部会資料より
いっしょに検証!公的年金 | 厚生労働省

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