人間関係

出汁をとった煮物にいきなり紅ショウガ乗っけるの?「味音痴」だと思っていた夫の深い苦悩(2ページ目)

夫は、妻の料理には味見もせずに、醤油をかけたり、紅しょうがをどっとかけてしまったりする。しかし、母親の料理にはちゃんと「おいしい」と言う。その根底には、意外な深層心理があることを知ることに。

亀山 早苗

執筆者:亀山 早苗

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義母が亡くなると、夫の発言に驚いた

義母が亡くなった時に、夫の心の奥底を見た

義母が亡くなった時に、夫の心の奥底を見た

1年前、義母が亡くなった。体調が悪いのに病院へ行くのを渋っていた義母が倒れたときには、すでに末期の膵臓がんと宣告された。夫だけがそれを聞き、母親本人にも妻にも話さなかった。セイコさんが知ったのは義母が亡くなってからだった。

「それはおかしい、夫の判断は間違っていると思いました。義母には自分の命の終わりを知る権利があったはず。息子とはいえ他人が大事な情報を隠すのは違うと思う。そう言ったら、夫は『うるさい、いいんだ、母さんはオレなんだ』って叫んだんですよ」

いくつになっても息子は、母親に特別な思慕があるようだ。だが、それにしてもこの発言はセイコさんを驚かせた。

「なんだか、夫と私の間にずっとあったわだかまりの正体を見たような気持ちになりました。夫は母親に愛されて育ったはずなんですが、もっともっとと求めていたんでしょうね。結婚後はそれが私にすり替わった。

だけど妻は母のような愛情はくれない。子どもが産まれれば子どもだけに目がいってしまう。そうしたらまた母親と暮らせるようになった。夫にとっては、最後まで母親が最愛の人だったんでしょう。私はもともと代わりではないのに、夫は自分の母と私を区別できなかった」

セイコさんから見れば、ごく普通の母子に見えたが、夫の「母を求める気持ち」は想像を超えていたようだ。夫には3歳違いの兄がいた。兄は病弱で、小学校入学を目前に命尽きた。母親はその後、喪失感にさいなまれて、あまり次男である夫の面倒をみられなかったようだ。

だからこそ、夫は求めても求めても母親の愛情に満足できなかったのかもしれない。

パートナーのトラウマは見えづらい

「結婚するときは、兄がいたけど子どものころに病気で亡くなったとしか聞いていなかった。夫はそのことは話したくなかったんでしょう。義母はもしかしたら、自分が次男を苦しめたと気づいていなかったかもしれない。そういうことも話してくれていれば、私は夫に、もう少し別の接し方をしていたかもしれません」

何年結婚生活を送っていても、相手の心の奥深くを知ることはできない。夫は夫で、パートナーだからといって、子どものころから引きずるトラウマを告白することはできなかったのだろう。根深く浸潤したトラウマは、強烈なトラウマと違って自分でも把握しきれていないこともある。

「なんとなく習慣で家庭生活を続けていますが、夫との関係はもう一度見直さなければいけないんだろうなとは思っています。この14年を一度総括しないと、私は先には進めない。もうじき義母の1周忌なんです。それをきっかけに話そうと思っています」

「夫は味音痴」という話の裏に、それほど深い夫の苦悩があったことに、セイコさんも衝撃を受けた。だが、このまま夫も自分も、何もかも見て見ぬふりをし続けてはいけないような気がする。彼女は覚悟を決めたかのようにきっぱりとそう言った。
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