たまたま早退した日の衝撃
息子が2歳になるころ、彼はたまたま風邪をひいて具合が悪くなり、早退したことがあった。「マンションの玄関を開けようとしたら、家の中から息子のひきつけるような泣き声が聞こえたんです。そうっと開けてみたら、妻が怒鳴り散らしていた。その言葉がすさまじくて……。『ふざけんなよ、おまえは』『おまえなんていらないんだよ、捨ててこようか』って。ふだん、僕も妻も息子に“おまえ”とは言わないようにしていたはずなのに……」
そのままリビングに入っていくと、妻が仁王立ちしていて、息子が土下座のようなかっこうで座ったままお腹を押さえて泣いていた。
「まさか……と思いました。息子に『ママにお腹を蹴られたのか』と聞くと、息子は怯えたような顔でイヤイヤをする。でも、おそらく蹴られたのだと思います。驚いて声も出なかった。
妻に『何をしているんだ!』というと、『あんまり聞き分けがないから、ちょっとお説教』と平然と言うんですよ。お説教にあんな乱暴な言葉を使うのか、いったいどういうつもりで息子に接しているんだと怒鳴ると、妻はフンッと顔を背けて出ていきました」
怯える息子は、頷いた
怖がらなくていい、いつもママにああやって怒られているのか、大丈夫だよと落ち着かせながら彼は息子に尋ねた。息子は彼をじっと見て頷いた。「警察に連絡すべきかと思いましたが、とりあえず息子の身の安全を確保しなければと思い、1時間ほど離れたところに住む実家の母親に連絡しました。両親はもうじき80歳ですが元気に暮らしている。とりあえず息子を2、3日預かってもらいたい、今から連れていくからと言うと、何かを察したのか『わかった。待ってるから』って」
連れて行って状況を話すと、母は「もしかしたらと思っていたけど」と、そんなこともあり得るような気がしていたと言った。ジュンさんを心配させまいと言わなかったが、母はジュンさんの妻の意地悪さを見抜いていたようだ。
「孫がどこか子どもらしくないと思っていた、と母が言っていました。気づけなかった自分が本当に情けない。僕が帰ると、妻が戻っていました。『ついカッとしてしまって』と妻は謝りましたが、怒鳴ったり手を上げたりするのが常態化していたようです。自分を制御しきれなかった、日々イライラが募っていったと妻は泣いていました」
妻はついに本性を見せた
だからといって元の生活には戻れない。もう手は上げない、怒らないと妻は言ったが、気持ちだけで自分を制御できるようになるとは思えなかった。「カウンセリングにかかるにしても、とにかく子どもとはしばらく会わせないと言ったら、『結婚できたのは誰のおかげだよ』と言い出した。ああ、これが妻の本性なんだなと思い、僕は離婚を決意しました」
離婚すればいいんだと思ったとき、急にもやが晴れたような気持ちになったという。心のどこかで、妻への疑念の芽は生まれていたのかもしれない。
その後、1年以上かけてようやく離婚が成立。両親は家を売って、ジュンさんが住むマンションの別の部屋を購入し、息子の面倒を見てくれている。
元妻はカウンセリングにかかりながら、パートで仕事をしているようだ。息子が会いたいならいつでも会わせるつもりでいるが、息子は今もママに会いたいとはいわないという。