修学旅行の貸し切りバスが直前で手配できない!? バスドライバー不足が深刻
2024年5月、修学旅行の貸し切りバスが直前で手配できなかったというニュースが話題になりました。中学生の修学旅行では、貸し切りバスがよく使われます。日本修学旅行協会の『教育旅行年報 データブック2023』の調査データ(2022年度分)によると、中学校の修学旅行では往路で36.4%、復路で39.6%の割合でバスが使われており、鉄道利用(約50%)に次ぐ高い割合です。一方、高校生の場合は遠方へ行くことが多いため、バスは少なくなり12.9%に減ります。
■中学校の地域別主な交通手段
日本修学旅行協会がまとめた中学校の地域別主な交通手段は以下の通りです。 なぜ、修学旅行では貸し切りバスが重宝されるのでしょうか。日本修学旅行協会 理事長の竹内秀一さんは、「まず費用が安いのが大きいです。貸し切りバスであれば、移動中にいろいろな活動もできます。電車の乗り継ぎなどもなく、目的地へ直接移動できるため生徒の管理のしやすさもあります」と説明します。
しかし、バス業界のドライバー不足は深刻です。2024年には労働時間規制が強化され、運転手不足が深刻化。政府はこの事態の解消を目指して、2024年3月に外国人材の受け入れ制度「特定技能」の対象に自動車運送業を追加しました。2025年には運用が始まるとみられており、外国人ドライバーが人手不足解消の一助になることが期待されています。
修学旅行においては、バスの運転手だけでなく、バスガイドも不足していて、OGが代わりになることもあるようです。そもそもバスガイドを付けないケースも増えているそうです。
班別行動によく使われる貸し切りタクシーも、台数は減少傾向。昨今は探究学習型の修学旅行が広がり、班別行動のような少人数での移動が増えているものの、移動手段の確保が課題になることも。そのため、長崎のように路面電車で移動しやすい街が注目を集めているそうです。修学旅行先として人気の沖縄県でも市街地に路面電車を走らせる計画が進んでいます。
宿泊施設や旅行会社も、どこもかしこも“人手不足”……
人手不足はバスやタクシーに限った話ではありません。宿泊施設や旅行会社も悩まされています。特に修学旅行で課題になるのが食事の提供です。「修学旅行の場合、多ければ数百人分の朝食をいっせいに用意する必要があります。その時間だけ人手を確保するのが難しく、それを理由に受け入れられないという宿もあります」と同協会事務局長の高野満博さん。昔は学生が通学前にアルバイトとして入ることも多かったようですが、授業が厳しくなったり少子化の影響があったりして、難しくなっているようです。
そもそも教育現場の人員不足も深刻です。修学旅行に探究学習の要素を取り入れるところが増えていますが、教員自身が体験したことがないため、手探りで一から取り組む必要があり負担は小さくありません。
「修学旅行も物価高の影響により、今までと同じ金額で同じことができないような状態にもなってきました。学校は地域性や子ども、家庭の状況も考えたうえで、生徒の学びに効果の高い場所を選んでいかなくてはなりません。ただ、先生たちはGIGAスクール構想による新たな取り組みなどが増えて、本当に忙しい。だから新しい行き先や内容を検討する余裕がなく、課題は感じていてもこれまでの内容を引き継いでいるケースも少なくないと思います」(竹内さん)
旅行会社からの新しい提案を期待しても、旅行会社も人手不足。「コロナ禍でベテランの退職や転職が相次ぎました。今、採用も積極的にしていますが、経験不足のため新たな提案にまでは至っていないのが現状だと思います」と竹内さん。
一方で探究学習の普及により、少人数での体験プログラムのニーズが高まっています。これまで団体の受け入れが難しかった施設が引き受けてくれるようになるなど、ポジティブな変化も見えています。
社会の変化に対応しながら、教育的な意義をいかに保っていくか。修学旅行の計画には、関係者のバランス感覚や創意工夫がますます必要になってきそうです。
>>>【表】修学旅行、貸し切りタクシー利用状況は?