時給が上がり、自分の気持ちも上がったが……
時給が上がれば、やりがいも増す。そもそも雇われの身、店のサービスそのものが法的にどうなのかなどと考える余裕もなかった。「毎日6時間くらいは働いていました。夜ならもっと時給を上げてもらえると知って、夕方いったん家に帰って子どもたちに夕飯を食べさせてから店に戻ることもありました。違法なことをしているわけじゃない、風俗じゃないというのが自分への言い訳だった」
店での行為はエスカレートしていった。「衣服の上からであれば、どこでもマッサージするように」と経営者から指示されたときには違和感を持ったという。もちろん、経営者には違法の自覚があったのだろう。
「半年前、経営者はいきなり店を畳んで雲隠れしました。最後の月の給料はもらっていません」
ある日突然、消えた経営者と途切れた収入
こんな展開もあるだろうかと予測してはいたが、いきなり収入が途切れたのがきつかった。夫の仕事も決して順調とはいえない状態だったからだ。「こうなったら腹をくくるしかない。今は熟女パブで働いています。昼間からやっているところがあるので。夫には普通の事務仕事だと伝えていますが、もしかしたらわかっているかもしれませんね」
ただの接客と割り切っても、飲酒を伴う接客だから男性客と危うい雰囲気になることもある。それでも「お金のため」とアリサさんは考えている。
「仕方がない。今はこうやってでも稼がないと、子どもたちに習い事もさせてやれない。夫は『今年いっぱい頑張っても、あまり稼げないようなら何か考える』と言いますが、ずっとフリーランスでやってきた人に、今さら会社勤めができるとも思えない。今までは夫に頼ってきたところがあるけど、今後は夫頼みではいられないなとも感じています」
思えば夫と知り合う直前まで、彼女には大手企業に勤める恋人がいた。夫と出会って、その恋人を振り捨てて一緒になったという経緯がある。
「ふっと、思うことがありますよ。大手企業に勤めていた彼と結婚していたら、こんな苦労はしなくて済んだのかなって。いい人でしたしね。
ただ、若かった私は、いい人と穏やかな家庭を作るよりフリーランスで夢を追っている男に魅力を感じてしまった。若気の至りですよね。自分の選択の結果だから、最後まで責任を取らなければいけないと思っています」
だから頑張るしかないんです、子どもたちに罪はないからと、彼女は力なく微笑んだ。
<参考>
・「令和6年度 地域別最低賃金 答申状況」(厚生労働省)
・「無資格者によるあん摩マッサージ指圧業等の防止について」(厚生労働省)