夫は子犬を蹴飛ばした
心が冷たい人間なのだと感じる
「娘の8歳の誕生日に、欲しがっていた子犬を飼おうと思ったんです。私も少し前から保護犬や保護猫のボランティアをしているので、娘と共に飼う子を決めました。それを夫に言ったら『そんな話は聞いてない』と。だから今、聞いてるの。娘が育てたいっていうし、ひとりっ子だから犬を飼うのもいいと思うと言うと、プイと横を向いてしまいました。『いいわね、飼うからね』と念を押したので大丈夫だと思ったんです」
数日後、準備が整って保護犬がやってきた。すぐに娘と仲よくなっている。人懐こくて穏やかな子だと聞いていた。ところが帰宅した夫は、家に入るなり「犬臭い」と大騒ぎ。
「ちゃんとシャンプーしたばかりだし、そんなに匂うわけないんですけどね。玄関で犬の声が聞こえたから、臭いと言いながら入ってきたんだと思う。娘がちょうど犬と遊んでいたんですが、『やめなさい。犬は鎖をつけて外で飼いなさい』って。小型の家犬ですよ。番犬じゃない。犬も夫を見て怯えているのが分かりました。だからさっと抱きかかえようとしたら、夫が犬を蹴ったんですよ。軽くだったけど、犬は悲痛な声を上げた」
その瞬間、娘が「やめて」と叫びながら父親に飛びかかった。夫もさすがにショックを受けたらしい。それきり、娘は父親と口をきかなくなった。
夫の心の冷たさ
「命あるものを足蹴(あしげ)にするのは、夫の心の冷たさでしょうね。犬はしゃべれないけど、自分を愛してくれているかどうか見抜いています。それきり犬もおかしくなって……。今は2階の娘の部屋で犬を飼っています。日が落ちるまでは階下で一緒に遊んだりしていますが、夜になると、いつ夫が帰ってくるか分からないから娘はさっさと2階に行ってしまう。私も夫が帰るまでは2階での生活です」そういえば義両親も60代になってから小型犬を飼っていた。そう思って、潤子さんはそれとなく相談してみた。つい思いが走って、夫が犬を足蹴にしたことを話すと、義母は「そういう子なのよ。結婚したら直るかと思ったけど、やっぱり変わらない」と嘆いた。
「離婚してもいいんだからねと義母に言われて、少し気持ちが楽になりました。今後、娘がどう判断するかをじっくり観察していくつもりです。今はまだ、娘のショックが強くて何も話せないので」
夫も娘を傷つけたことは頭では分かっているようだ。だが自分がそれほどいけないことをしたのかが分かっていない。それが絶望的だと、潤子さんはまたつらそうな顔をした。