自分の職場が「ゆるブラック企業」だと思ったらどうすべき?
そうした職場は、若者にとって直接的なストレスこそ少なく、ある程度の働きやすさがある一方、自らの成長や将来性を実感できないという弊害も出てくる。若者はそのような職場を「ゆるブラック企業」と呼び出した。社員を劣悪な労働条件で酷使する企業を指した「ブラック企業」から派生した造語である。なぜ「ゆるブラック化」が進行しているのか。そしてもし働く会社が「ゆるブラック化」していることに気付いたとき、あなたはどうすべきか。
「ゆるハラ」とは何か。成長と働きやすさを同時にかなえられない職場が増殖中?
セクハラやパワハラを代表に、ほかにもマタハラ、カスハラ、モラハラなど、さまざまなハラスメントに名前がついている。こうした多様なハラスメントの実態が露見してきた一方で、逆に最近ではそのようなハラスメントがまったくと言っていいほどない「ゆるい会社」が話題になることも増えてきた。ここでいう「ゆるい」とは仕事が楽であるとか、上下関係が厳しくないなどの意味である。待遇はそれほど良くないけれど、「ゆるい会社」「ゆるい仕事」で居心地も良いからいいか、そのような妥協も生まれやすい。実際「ゆるい会社」の「ゆるい仕事」は、単調で同じことの繰り返しであり、仕事を通じて新しいスキルや知識を身につける機会もなく、特に仕事を早く覚えたい若い世代にとっては、成長する機会があまりない環境といえる。
「ゆるい会社」はポジティブな意味で使われることも多い。一方、今この瞬間に「ゆるい状態であること」は楽でいいのかもしれないが、もしそのままずっと「ゆるいまま」でいたら、自分の実力がつかず、待遇改善もなく、いつの日か大変な苦労をするのではないかという心配も同時に抱きやすい。長い目で見てジワジワと自分の状況を蝕んでいく状況という意味で、ブラック企業の新たな形として捉えられ、「ゆるブラック企業」と呼ばれるようになった。これは社員に対する新しいハラスメントなのかもしれず、言うならば「ゆるさによるハラスメント」、略して「ゆるハラ」だろうか。
ハラスメントを極度に警戒する社会を迎えた今、どの会社も少しずつ「ゆるブラック化」していくリスクがある。ビジネスの自然な摂理に沿って考えれば、そこには常に競争があり、実力勝負があることには変わりはない。年功序列や終身雇用も薄まるばかりで、転職も活発化する社会において、経験と実績は厳しく問われる。快適な職場で働くことは気持ちのいいことだが、知らないうちに自分の価値が相対的に下がっているようなことはないだろうか。日本全体で見れば、過去20年以上にわたり給料が上がらず、この間に多くの国が成長して、日本よりも豊かになっていった。「ゆるブラック化」の影響は、すでにかなり深刻であるかもしれない。
一見ホワイト企業のような「ゆるブラック企業」を見分ける10のチェックリスト
「ゆるブラック企業」は残業が少なくて職場の人間関係も良好であるため、一見ホワイト企業のようである。だからこそ「ゆるブラック化」の進行に気付きにくい。「ゆるブラック化」が進んでいる兆候をいくつか紹介しよう。これらのうち3つ以上が当てはまる場合、自分の職場を疑ってみてもいいかもしれない。- 上司から部下への直接的な指導や注意がほとんどない
- 知らないうちに上司が部下の仕事の失敗の埋め合わせをしている
- 本来部下にやらせてもいい仕事をいつまでも上司がやっている
- 上司や中高年世代が忙しすぎる
- 出張には管理職や中高年世代が行き、若い世代の同行が減っている
- あらゆる世代で社内研修の機会が減っている
- 昇進や異動、または転職などに対して無関心な人が多い
- 社内イベントや社員間の交流が極端に少ない
- 社員がPCや携帯と向き合う時間が長く、会話が極端に少ない
- 社員間の関係は悪くないが、目指したい上司像が見当たらない
自分の会社が「ゆるブラック化」していることに気づいたとき、あなたができることは?
自分の会社がゆるブラック企業かもしれないと疑うことは、あまり喜ばしいことではないかもしれないが、もし待遇の改善が遅い、成長の機会がない(もしくは遅い)、将来の自分の市場価値が心配だという人は、ゆるブラック化に対する対策を考えるといいだろう。これには3つの対応策を提案したい。第1に、若い世代から年長者に主体的に働きかけることである。世代間ギャップを感じているのは若い世代だけでなく、中高年世代も同じであるため、待っていてもなかなか上司や先輩世代から声がかかることはない。若い世代はインターネットで何でも問題解決をする傾向があることも分かっていて、年上の世代は若い世代には声をかけづらいことが多い。ましてハラスメントに敏感な社会で、上の立場にいる人は、そのつもりがなくても相手にプレッシャーをかけやすいため、多くの中高年世代は神経質になっており、若い世代との会話を避けるようにもなっている。一昔前とは、この点が大違いである。
以前は、必ず職場に2~3人はお節介な熱血派の先輩や上司がいて、さまざまに注意して指導もするが、その分、若い世代をかわいがってくれたものだ。そのような人物は、もうほとんど見当たらなくなり、損をしているのは明らかに若い世代である。仕事上の問題をネット上からの情報収集で解決できると考えるのは、残念ながら大間違いであるからだ。簡単な問題、誰でも知っている情報なら、確かにネット上にたくさんあるが、独創的な発想、他人と差別化できるような知恵、経験した者にしか分からないノウハウなどは、実際にさまざまな成長の機会を通して身につけ、成功と失敗の両方から学ぶ必要がある。ゆるブラック化した職場には、その機会はほとんどない。
ゆえに、若い世代は、何とか自分から積極的に働きかけて、成長の機会を得る必要がある。それは時に先輩世代から仕事を奪うことになるかもしれず、その場合は、日頃からいかに先輩世代と交流して、信頼関係を築いているかがカギとなる。リアルな接点を持たず、ただメールやチャットなどのオンライン上で会話をしていても、そこには何も熱いものは存在していない。
「他流試合」を通して成長し、一度これまでの流れを断ち切ることも考えてみる
2つ目の対策は、社外で成長の機会をたくさん見つけることである。これは資格を取るような知識をストックするタイプの活動よりも、リアルに人と交流し、議論して、一緒に問題解決をするようなワークショップ型のイベントにたくさん参加することが望ましい。つまり、多くの他流試合をすべきだということだ。ホームグランドではなく、アウェーの状態で戦えるかどうか、そこが本当の実力があるかどうか、真価を問われるポイントだ。ハラスメントばかりを気遣う現代社会では、周りが過保護になりやすい。過保護に育った社員は、いわゆる先輩や上司が満足するような“いい子”には育つかもしれないが、厳しい環境を避けてきたがために、変化の早い激動の時代には将来にわたり何かと伸び悩むのである。
3つ目の対策として、どんなに順調に事が進んでいるように見えても、どこかのタイミングで自らこれまでの流れを断ち切ることを考えてみることだ。転職をするのもそのひとつだが、全く転職するつもりがない人も世の中には多いため、その場合でも他の方法で流れを断ち切ることを提案したい。
例えば、社内制度を使って別の勤務地や部署に異動を願い出ること。社内起業制度を使って、全く異なるビジネスに挑戦してみること。人は変化を嫌うため、こうした提案は嫌厭されることが多いが、快適な職場や人間関係では見えなくなっていることは多く、それが他のところに行ったらよく見えてくるということは多い。これは優等生タイプには苦手な対策かもしれない。しかし、やってみれば分かるが、効果はてきめんである。
ゆるブラック化が進行する会社で働くことは、もしかしたらブラック企業で働くよりも人生へのダメージが大きいかもしれない。ブラック企業ならすぐに飛び出せるが、ゆるブラック化による機会喪失は本人がなかなか気付くことができず、それをしみじみと実感するのは、出世の限界を感じるようになるずっと先のこと、つまり40代後半から50代になってからのことが多いからである。若い世代にとって、現代社会の職場は何とも難しく厳しい状況にあるのかもしれず、できれば中高年世代も、この状況下からの打開に向けて各職場で動き出すことを願いたい。