「別姓」に疲れた時期もあった
一方で、別姓を選択したことで一時期は疲れ果て、いっそ婚姻届を出そうかと迷ったこともあるというのはヨシミさん(40歳)だ。「今、8歳になるひとり娘がいますが、最初に迷ったのは妊娠がわかったとき。夫が父親学級に参加できないのではないか、子どもが将来いじめられるのではないかと、いろいろ考えてしまって。でも私は、やはり自分の姓を大事にしたかったし、夫もそれは同じ。できるところまでがんばってみようとふたりで話し合いました」
住んでいる自治体と話し、夫が父親学級に参加することはできた。産まれた子は夫が認知したが、確かに家族でひとつの戸籍があるわけではない。
「一瞬、気持ちがめげて、やはり婚姻届を出そうかとも思いました。でも夫も私も、個々のアイデンティティを大事にしたい思いは強い。大人になってから、慣れ親しんだ、そして社会で生きてきた自分の姓を変えなければいけないのはどうしてもおかしいと、だんだん腹が立ってきた。そこからは迷いなく別姓を貫いています」
娘には小さいときから、きちんと説明してきた。別姓だからといって家族には違いがない。誰かに何か言われても、堂々としているようにと。幸い、娘のクラスにはもうひとり、夫婦別姓の家の子がいた。担任の先生も、そういう家もあると説明してくれたため、子ども同士では話題にもなっていないようだ。
夫婦同姓は今や「日本だけ」
だが、姓が違うことをいちいち説明しなければいけないことにも腹が立つとヨシミさんは言う。結婚したら姓を統一しなければいけないのは、世界を見渡しても今や日本だけとなっている。それぞれの姓を名乗る、複合でもいいなど、世界はもっと自由である。そして日本では97パーセント以上が、夫の姓を名乗っているのが現状だ。
「私は夫の姓を名乗るのが、夫の“家”に取り込まれるような気がして嫌でした。夫も『それは自分も同じ、僕たちは個人と個人なのだから、それぞれの苗字でいいはずだ』と。いつまで待てば実現するんですかね」
“伝統的家族制度”とやらに固執する国と、市民の生活の間にある溝はますます深く広くなっている。