泣き止まない子、私をバーンと叩く夫
初孫だというのに義父母はあまり喜んだ様子はない。親戚が来たときだけ、「かわいいでしょう」と自慢していたが、世話をしてくれたこともなかった。「子どもが泣きやまなかったとき、夫が私の頭をバーンと叩いたんです。何も言わずに。意味がわからなかったけど、苛立っていることだけは伝わってきた。同時に怒りがわきました。あなたの子でもあるんですけどと言いたかった」
子どもがよちよち歩きをするようになれば、親はハラハラしながらもうれしがるものだが、ある日、夫は家の中でよちよち歩く娘が邪魔だったのだろう、足をかけて転ばせた。アツコさんは夫に背を向けて、洗濯物を畳んでいたのだが、その瞬間だけ振り向いて見てしまった。夫と目が合った。娘が火がついたように泣き出した。
「娘を抱きしめて、言葉も発しないままに夫を睨みつけました。夫は『なんだよ、その目は』と私の髪の毛を引っ張った。なぜそこまで嫌われているのかわかりませんでした」
階下からは、「うるさいわよ」と義母の声が響いてくる。アツコさんは翌日、娘を連れて家を出た。実家に戻るわけにもいかず、いとこを頼った。
「いとこも結婚しているので、そうそう長くはいられない。数日で、今度は友だちの家へ。でも夫が迎えに来て、どうしても戻ってほしいって言われて」
戻ってみたら、義父母からのいじめと夫の暴力はさらにひどくなっていった。娘が5歳になったとき、夫に突き飛ばされてアツコさんは鎖骨を折った。ここにいたら生きていられないとアツコさんは感じた。
「また友だちの家に避難し、彼女の協力もあって支援団体とつながることができました。それから仕事を探して、2年かけて離婚して」
離婚後の生活がうまくいかず生活保護に
これからは娘とふたりで生きていこう、貧乏でもいい。そう思っていたアツコさんだが、離婚して1年後、体調を崩して入院。そこから自分でも心身が崩れていくような疲れを感じ、とうとう仕事を辞めるしかなくなった。「それからは生活保護を受けています。本当は受けたくなかったけど、どうにもならなかった。今は少し体調も回復してきたので仕事を探し始めているんですが、なかなか見つからない。9歳の娘に慰められる日々です」
節約を重ねる日々にも疲れた。あのまま婚家にいたら、今よりましな暮らしができたはずだという思いが最近、強くなってきて、くよくよ考えてばかりいるという。
「あのときは身の危険すら感じていたから逃げたのに、離婚して意気揚々とうまく生きていくことができなくなると、やっぱり婚家の生活の方がよかったんじゃないかと思い始めて。弱いですよね、私。シングルマザーで強く元気に頑張っている女性はたくさんいるのに、私はすぐに『ダメな人間だ』とあきらめてしまうんです。自分でも情けなくて」
生活保護から脱してきちんと自立しなければと思いながら、それがうまくいかない焦燥感が空回りしているだけだと彼女はつぶやいた。それでも頑張っていくしかないんですけどねと、最後に彼女は少しだけ明るい声で言った。