カラーコーディネート

『光る君へ』そして『源氏物語』…貴族衣装の色から伝わる人物像とは?

NHK大河ドラマ『光る君へ』は、平安時代の貴族の衣装が見どころの1つ。『源氏物語』の「歳暮の衣配り」という場面では、光源氏が妻や娘たちに似合う衣装を選ぶ様子が描かれます。今回は、人物像が伝わる衣装選びを見ていきましょう。

松本 英恵

執筆者:松本 英恵

カラーコーディネートガイド

衣装は登場人物の人物像や人間関係を映し出す

衣装は登場人物の人物像や人間関係を映し出す

物語において、服装は登場人物の人物像や人間関係を映し出す重要な要素。NHK大河ドラマ『光る君へ』では、平安時代の貴族の衣装が見どころの1つとなっています。
 

『光る君へ』の衣装とキャラクター

主人公・まひろ(紫式部:吉高由里子)の衣装は、父・藤原為時(岸谷五朗)が官職を得て、藤原宣孝(佐々木蔵之介)と結婚すると、華やかになりました。しかし、源倫子(黒木華)や源明子(瀧内公美)の衣装はもっと豪華です。まひろは下級貴族、源倫子や源明子はどちらも上級貴族であることを示しています。

源倫子と源明子は、よく似た衣装を着ていることもありますが、源倫子の方が陽だとすると、源明子は陰の趣があります。倫子は夫・藤原道長(柄本佑)の出世のために積極的に働きかけるなど、知略に長けている一方で、明子は道長の父・藤原兼家(段田安則)を呪詛(じゅそ)したり、道長との子を失ったりと、『源氏物語』の登場人物「六条御息所(ろくじょうのみやすどころ)」を連想させるキャラクターです。2人の人物像が衣装の趣に反映されているといえます。
 

『源氏物語』の登場人物の衣装

『源氏物語』には、六条御息所の衣装に関する記述はありませんが、能楽、絵画、映画、ドラマなどの派生作品では、六条御息所は白地の衣装が多く、気高くも薄幸な人物像が浮かび上がってきます。

『源氏物語』の登場人物の衣装といえば、「玉鬘(たまかずら)」巻の「歳暮の衣配り」がよく知られている場面。光源氏が35歳の年の暮れ、妻(紫の上、花散里、末摘花、明石の御方、空蝉)と娘(明石の姫君、玉鬘)に正月用の衣装を選びます。

女性たちは光源氏の屋敷に住んでいますが、紫の上は女性たちとは面識がありません。そのため紫の上は、光源氏が選んだ衣装から女性たちの容姿を想像し、光源氏と女性たちの関係を推しはかろうするのです。
 

「紫の上」の色は?

『源氏物語』の衣装の色(若紫、紫の上、明石の姫君)

『源氏物語』の衣装の色(若紫、紫の上、明石の姫君)

光源氏は18歳の春、北山で幼い紫の上(10歳)を垣間見て、心を奪われます。このとき紫の上が身につけていたのは「白き衣、山吹などのなえたる」、すなわち白と山吹色でした。

光源氏は幼い紫の上(若紫)を自邸に引き取り、理想の女性に育て上げ、妻とします。

「歳暮の衣配り」で光源氏が紫の上(27歳)に選んだのは、「紅梅のいと紋浮きたる葡萄染の御小袿、今様色のいとすぐれたる」衣装で、葡萄色(えびいろ)と今様色の組み合わせです。※紅梅は色名ではなく、織物の地紋のこと

葡萄色とは山ぶどうの実が熟した色のことを指します。今様色は流行色のことで、平安時代の今様色は紅花で繰り返し染めた、輝くような赤色のこと。光源氏は紫の上に、最も高価で、気品高いものを贈ったのです。

明石の姫君(7歳)の衣装は、「桜の細長に、つややかなる掻練(かいねり)取り添へては、姫君の御料なり」という記述の通り、桜色と紅花の組み合わせでした。

山吹、桜など、自然に由来する色名が多く登場するので、文字を読むだけで、目の前に色が広がるように感じられるのではないでしょうか。
 

「紫の上」を動揺させた「玉鬘」「明石の御方」の衣装

『源氏物語』の衣装の色(玉鬘、明石の御方)

『源氏物語』の衣装の色(玉鬘、明石の御方)

玉鬘(たまかずら:21歳)の衣装は、「曇りなく赤きに、山吹の花の細長は、かの西の対にたてまつれたまふを」、すなわち茜色と山吹色でした。

玉鬘は、光源氏が17歳の秋、逢瀬の際に息を引き取った夕顔の忘れ形見。父親は光源氏のライバル・頭の中将(とうのちゅうじょう)ですが、光源氏は玉鬘を養女とし、花散里(はなちるさと)を後見にしました。

玉鬘の華やかでモダンな衣装を見た紫の上は、頭の中将の華やかな顔立ちに似た姫君なのだろうと想像し、光源氏との関係に強い関心を示します。

明石の御方(あかしのおんかた:26歳)の衣装は、白・艶やかな紫の組み合わせ。「梅の折枝、蝶、鳥、飛びちがひ、唐めいたる白き小袿に、濃きがつややかなる重ねて、明石の御方に」と記述があります。※「梅の折枝、 蝶、鳥、飛びちがひ」とは、織物の地紋のことで、「唐めいたる」とは、舶来のモダンな印象のこと

光源氏は27歳の夏、明石の御方と契りを交わし、明石の姫君が誕生。明石の御方は身分が低かったため、明石の姫君は紫の上の養女として引き取られました。明石の御方の気品ある衣装を見た紫の上は、嫉妬心を募らせます。
 

心の機微を映し出す「末摘花」「空蝉」の衣装

紫の上は、花散里、末摘花(すえつむはな)、空蝉(うつせみ)の衣装には関心を示しませんでした。
『源氏物語』の衣装の色(花散里、末摘花、空蝉)

『源氏物語』の衣装の色(花散里、末摘花、空蝉)

花散里(光源氏と同年代)の衣装は、「浅縹(あさはなだ)の海賦(かいふ)の織物、織りざまなまめきたれど、匂ひやかならぬに、いと濃き掻練具して、夏の御方に」と記載があり、浅縹、紅花の色を使った衣装でした。※海賦とは、浜辺の風景を描いた唐風のモダンな文様のこと

花散里は出自が高く、温和な慎ましい性格。光源氏から信頼され、玉鬘の後見を任されました。

末摘花(光源氏と同年代)の衣装は、「末摘花の御料に、柳の織物の、よしある唐草を乱れ織れるも」。柳色の衣装です。

光源氏は末摘花には似合わないと思いながら、柳色の唐草模様の織物を選びました。

空蝉(光源氏と同年代)の衣装に使われたのは、「空蝉の尼君に、青鈍の織物、いと心ばせあるを見つけたまひて、御料にある梔子(くちなし)の御衣、聴し色なる添へたまひて」とあるように、青鈍(あおにび)、支子(くちなし)色、聴し(ゆるし)色の3色。

空蝉は光源氏に一度は身を許しましたが、その後は拒絶し続け、出家しました。青鈍色の織物に、自分用に仕立てられた薄い支子色の衣装を添えて贈ったのは、光源氏とって忘れられない存在になったからと解釈されています。


女性たちに似合う衣装を選ぶという行為を通して、作者・紫式部は女性たちの容姿、身分、性格などを視覚的に表現しようと試みました。そして、光源氏と紫の上の会話を通して、登場人物たちの関係性や心の動きまでもが生き生きと伝わってきます。現代人にとっても色あせない魅力を備える『源氏物語』。色に着目して楽しむのもおすすめです。

参考文献
「源氏物語」五十四帖の色 吉岡更紗 (著)、吉岡幸雄 (原著)

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