起源は1980年代にさかのぼる「おやじの会」
「おやじの会」の起源は諸説あり、1980年代にさかのぼります。「1982年に神奈川県川崎市で始まった」という説と、「1986年に東京都中野区の中学校が起源」という説が有力です。当時の日本では、「男女共同参画社会」の実現に向けた取り組みが盛んになっていました。そのなかで従来は母親中心だったPTA活動に、父親も積極的に参加すべきという機運が高まっていました。
こうした背景から全国各地の小中学校を単位に、地域の父親たちが自然発生的に「おやじの会」を結成し始めたと考えられています。その成り立ちもさまざまですが、今回はひとつの事例として「小金井第三小おやじの会」(東京都小金井市)を紹介します。
会則も、動員もなし「小金井第三小おやじの会」
「自分の子どもだけでなく、地域の子どもたちといっしょに自発的に楽しむ」2008年に「小金井第三小おやじの会」を立ち上げ、学校でお泊まり会やちゃんばら、祭り、水鉄砲大会などさまざまな催しを企画してきた父親歴28年の小林浩さんは、同会のモットーについてこう語ります。 渋谷の企業に勤める小林さんは、転勤のたびにその土地でおやじの会を立ち上げて、「小金井第三小おやじの会」は3度目。結成17年目をむかえる2024年現在、コアメンバーは小林さんを含め7名程度だそうです。
会の特徴は、
「代表がいない代わりに会の窓口として世話人を配置。それ以外は役職を作らない」
「スゴイヤツはいるけど、偉い人はいない」
「会則も作らない」
「動員しない」
「人の動きを事前に決めすぎない」
「だれでも自由に企画をたててOK」
「よい意味で“雑”でOK」
「イベントは、実施したらすべてが成功!」
人が集まり組織になると義務感や立場(役職)にしばられがちですが、つねにフラットにしておくために、役職や会則をあえて「作らない」「決めない」“ゆるーい”運営をしています。
おやじの会とPTAとの関係は?
おやじの会とPTAとの関係は、どうなっているのでしょうか。「小金井第三小おやじの会」は、2008年より同校PTAの一部に位置づけられています。同校のPTA会則をみると、「ボランティア組織として、地域のマンパワー等を取り込む可能性も考慮し、代表が必要と認めれば、本校保護者以外もPTAの構成員として認める」とあります。
「ただ、これはあくまでも、小金井第三小学校のケース。こうしてPTA会則で定めているところが多いのか少ないのかなどの傾向については、全国的にまとめる組織がないため、未知の部分があります」と小林さん。
PTAはその構造上、「会員の総意」をもとにさまざまな活動を行っています。対しておやじの会は、メンバーの「やりたい!」を基本に自由に活動していることが多いようです。
PTAも学校もやらない(できない)ような活動を行うことが多く、筆者がこれまで取材してきた他のPTA関係者からは、「おやじの会は、自分たちの好きなことばかりやってずるい」という声を聞くこともありますが、そうした声に小林さんは、
「そういう人たちにこそ、おやじの会に来てほしいんです。おやじの会は、はじまりは父親ですが、父親だけの会ではありません。父親でも母親でも、まずは活動の場所にきて、子どもたちと遊んでみてください。その場でわが子や他の子どもたちと遊ぶのもよし、当日の運営のお手伝いをしてくれるのもよし。楽しむを核に、その場の過ごし方を自分で判断して過ごしてほしいんです」と言います。
現在「小金井第三小おやじの会」の世話人やイベントの企画・運営は、現役保護者メンバーが担当しています。小林さんは相談役のような立ち位置で、必要に応じてアイデアを出したり催しの司会を務めたりしているそうです。
「僕はこの会の発起人ではありますが、なにせフラットな組織なので、年長者の僕に対する遠慮のようなものはありません。持続可能な組織にしていくためにも、代替わりが順調にいくようにしたいのですが、会則を決めないというゆるい運営が裏目に出ているところではあると感じています」
おやじの会を地域デビューのプラットフォームに
長年にわたるおやじの会の活動を通して、小林さんは地域住民のつながりが薄れてきていることが気にかかると言います。「地域社会はそこに住んでいる人が作っていくものです。しかし共働き家庭が増え、自分たちのことに精いっぱいで地域活動に関わる時間が減ってきています。共働き家庭の忙しさは十分理解できますが、サービスを享受する感覚だけで地域イベントに来る保護者が増えていることも気になります。これまで、子どもたちに『勉強と部活だけやってればいいから』などと、学校と自宅の往復が中心で地域から切り離してきた教育をずっと続けてきた結果ではないでしょうか」。
小林さんは続けます。
「日本全国にあるおやじの会を、子どもの縁をきっかけに地域デビューするプラットフォームとしてとらえ、気軽に足を踏み入れてほしいです。
今、学校をはじめ社会全体が、『何かあったらどうするんだ』『責任はどこが(だれが)とるんだ』など、リスク回避や安全性を重視しすぎるあまり、どこか窮屈で息苦しい雰囲気に陥ってしまいがちです。おやじの会のような地域のゆるやかなつながりが、そんな社会の空気を変えていく役割を担っていければと思っています」。
核家族・共働き家庭の増加などに伴うなり手不足により、PTA活動の省力化も進んでいます。おやじの会が、PTAを補完する活動を行っている事例も少なくありません。
おやじの会のメンバーが自主的に集まる「全国おやじサミット」
おやじの会は全国各地で活動を展開しており、4000を超える団体があるといわれています。定義や要件があるわけではなく、「PTAの一部」というスタイルから、「子どもの有無に関係なく地域の男性が集まる」というスタイルまで、多様な形態となっています。このおやじの会のメンバーが、年に1度、自主的に集まるのが「全国おやじサミット」。2024年は8月24日(土)に神奈川県藤沢市で開催されます。
「手あげ方式で開会を宣言。実行委員会を立ち上げ、手弁当、手作りで開催しています。活動のアイデアを共有し、地元に持ち帰ることができる有意義な会です。もちろん、おやじの会に興味がある女性や独身の方の参加もOK」と、小林さん。 輪番で開催地が決まり多大な費用をかけて行う「PTAの上部組織が主催の全国イベント」と、「全国おやじサミット」とでは、開催趣旨も運営方法も根本的に異なります。
性別による役割分担にとらわれないコミュニティーへ
少子高齢化や共働き家庭の増加など、近年社会環境は大きく変化しています。こうした状況のなかで「おやじの会」は、従来の「父親による子育て支援」という枠組みを超え、地域全体の子育て支援や地域活性化など、さまざまな役割を担うようになっています。
その名称は現代のジェンダーレスの方向性に逆らうような印象を与えるおやじの会ですが、「従来の性別役割分担にとらわれず、多様な価値観を持つ人々が、地域の子どもたちのために、より良い社会を作ろうとする人々が集まるコミュニティー」として持続していくのではないでしょうか。