後輩のパーティーに出席して
のらりくらりと家事から逃げ回る夫、ときには「子どもとオレと、どっちが大事なんだ」と幼稚な不機嫌さを隠さなかった夫。あげく社会的にも自分より出世しなかった夫。それでも離婚を考えたことはなかった。「長い年月一緒にいると、なんとなく空気みたいにいて当たり前になってしまうから、大きな変化は望みませんでした。夫に対して、ムカッ、イラッとすることはあっても、忙しいから怒りの感情は長続きしないし」
ただ、1年ほど前、共通の知り合いで後輩にあたる人のパーティーに出席することになった。その後輩は研究職なのだが、若くして賞をもらったということで、夫とヤスヨさんはそれぞれに付き合いがあり招待されたのだ。
「仕事上、私の方が後輩とは親しかったんですが、夫も少し接点があったようで職場の代表としてやってきた。もちろん夫が行くことは知っていましたが、ああいうパーティー会場で夫を客観的に見るのはほぼ初めてのできごとだったから、とても興味深かったんです」
ヤスヨさんは仕事の関係者としてスピーチをした。その後も後輩に関わる人たちと積極的に情報交換をしながら、目では夫の行動を観察し続けた。
「夫はあまり社交的ではないんですよね。いつも自分があたかも社交的な人間であるかのように吹聴しているんですが、ああいう公の場ではなんだか飲み物持って端っこにいるような感じ。夫の仕事にもプラスになればと思って知人を紹介したりもしたんですが、あまり話が盛り上がらなかったみたい。そんな夫を見ているうちに、私、どうしてこんな小さい男と結婚しているんだろうとふと思ってしまったんです」
夫に対する自分の本音に気づいた瞬間
他の誰かがよかったというわけではない。夫との間に授かった子どもたちは宝物だ。だが、夫への感謝や敬意は自分の心の中にないと気づいた瞬間だった。「知人と軽く一杯やって帰宅すると夫はすでに帰っていて、パーティーの模様を子どもたちに聞かせていたようです。『ママ、大活躍だったんだって?』と次男に言われて、さすがに夫も自分が目立ったとは言えなかったんだろうなと推察しました。
その後、二人きりになると夫が『きみがとても輝いて見えた』『周りの人に、あれはうちの妻なんですよと言いたくなった』とやけに褒めるんです。自分の夫婦観が間違っていたような気がするとまで言い出して……」
一方で、ヤスヨさんの気持ちは萎えていった。このままあと数十年、この人をパートナーとしてやっていけるのだろうか、と。夫の気持ちがわからなければ、こんなものだろうと流していけたが、夫が妙に自分を評価したためにかえって気持ちがしらけてしまったのだ。
「今はなんとかやっていますが、子どもたちの手が完全に離れたときが危ないですね。何か夫と二人で新しいことを一緒に始めたほうがいいかもと思いながらも、その気になれない自分がいる……。ちょっと先行き暗い気がします」
最後はちょっと笑ってみせたが、夫についてはほとんど関心がないのだろうと見てとれた。