カラーコーディネート

『光る君へ』でも注目の平安時代の色彩感覚。現代でも参考にしたい、四季折々の配色とは?

NHK大河ドラマ『光る君へ』では、平安時代の貴族の装束が再現されています。平安時代は「十二単」に見られるように、日本独特の色彩文化が花開きました。今回は、平安時代の装束や四季のかさねの色目を見ていきます。(サムネイル画像出典:PIXTA)

松本 英恵

執筆者:松本 英恵

カラーコーディネートガイド

平安時代に花開いた色彩文化とは?

平安時代に花開いた色彩文化とは?

平安時代は「十二単」に見られるように、日本独特の色彩文化が花開いた時代です。平安時代を舞台にした2024年のNHK大河ドラマ『光る君へ』では、平安時代の貴族の装束が再現されています。

今回は、平安時代の貴族の装束について解説した後、日本独特の色彩文化を象徴する“四季のかさねの色目”を見ていきましょう。

男性の仕事着「束帯」は官位によって色が異なる

例えば、『光る君へ』の参議(朝廷組織の会議)のシーンでは、藤原道長(柄本佑)ら高官たちが黒い「束帯(仕事着)」で出仕する様子が描かれました。束帯は官位によって色が異なり、まひろ(紫式部・吉高由里子)の父・藤原為時(岸谷五朗)は、花山天皇(本郷奏多)の代に式部丞・六位蔵人に任ぜられたときは緑の束帯を、従五位下に任ぜられると赤の束帯を着用しています。

男性の普段着は「直衣」と「狩衣」

男性の普段着は、屋敷に来客があるときなどに着る直衣(のうし)、よりカジュアルな狩衣(かりぎぬ)があります。『枕草子』の「あはれなるもの」の段に、後にまひろの夫となる藤原宣孝(佐々木蔵之介)の派手な服装を揶揄(やゆ)する記述があるように、若い頃は明るく華やかな色が、年齢を重ねると落ち着いた濃いめの色が好まれたようです。

「十二単」は女房たちの正装

十二単(五衣唐衣裳・いつつぎぬからぎぬも)を着用したのは主に貴人の使用人である女房たち。藤原定子(高畑充希)は貴族女性の普段着である小袿(こうちぎ)、ききょう(清少納言・ファーストサマーウイカ)は十二単を着用しています。宮中では、自分より身分の高い人の前ではフォーマルな服装をするため、藤原定子も一条天皇(塩野瑛久)の御前では、十二単を着用するのです。

鈍色(グレー)は喪服の色

藤原定子の母・高階貴子(板谷由夏)が亡くなったときは、鈍色(グレー)の喪服姿で、喪に服す様子が描かれました。鈍色は喪服の色なので、仕事着や普段着には取り入れません。

平安時代の貴族の装束は、仕事着、普段着、喪服などのルールがあり、十二単や普段着では季節感を取り入れた配色が流行しました。今回は、平安時代の四季折々の配色の例を解説します。

春に着用するかさねの色目

春に着用するかさねの色目

春に着用するかさねの色目

かさねの色目とは、衣の表地と裏地の組み合わせのこと。裏地の色は袖口や裾などからちらりと見えるだけですが、センスを競い合うようにさまざまな色目が考案されました。

紅梅(こうばい)、黄柳(きやなぎ)、桜(さくら)、壺菫(つぼすみれ)、躑躅(つつじ)、裏山吹(うらやまぶき)といった、春に咲く花々を表現したかさねの色目は、春に着用されました。色名の青は、現代の緑のことを指します。青(緑)を用いたかさねの色目は多くあるので、好まれる色の一つだったようです。

夏の着用するかさねの色目

夏の着用するかさねの色目

夏の着用するかさねの色目

夏に着用するかさねの色目には、夏に咲く花々を表現した卯花(うのはな)、杜若(かきつばた)、撫子(なでしこ)、夏萩(なつはぎ)ばかりではなく、みかんの実を表現した橘(たちばな)、蝉の羽(せみのは)といった色目もあります。

身分の高い貴族は、主に絹織物を着用したので、表地に白を使用すると裏地の色が透けます。透け感を楽しむという文化は、昨今、流行しているシアー素材に通じるところがあるかもしれません。

秋に着用するかさねの色目

秋に着用するかさねの色目

秋に着用するかさねの色目

秋に着用するかさねの色目のうち、花薄(はなすすき)、女郎花(おみなえし)は花の色を表します。そのほか、朽葉(くちば)は枯れ落ちた葉の色、小栗色(こぐりいろ)は熟していない栗の色、落栗色(おちぐりいろ)は実り落ちた栗の実の色、虫襖(むしあお)は玉虫の翅(はね)の色をそれぞれ表し、四季の移ろいが感じられるさまざまな色目が流行しました。

女郎花の裏地の青は布を染めた染色のこと。表地の経青緯黄は、経糸(縦の糸)に青、緯糸(横の糸)に黄色を用いた織色のことを指します。

冬に着用するかさねの色目

冬に着用するかさねの色目

冬に着用するかさねの色目

枯色(かれいろ)、枯野(かれの)は、冬枯れで野辺の草葉の色が変化する様子を表現したもの。氷(こおり)や氷重(こおりがさね)は氷の冷たい感じを表したものです。ほかにも、雪に埋もれた紅梅の花を表した雪の下(ゆきのした)、寒椿の花を表現した椿(つばき)などが考案されました。

季節を問わないかさねの色目

季節を問わないかさねの色目

季節を問わないかさねの色目

松重(まつがさね)、檜皮色(ひはだいろ/ひわだいろ)、胡桃色(くるみいろ)、秘色(ひそく)、木賊(とくさ)、紅匂(くれないのにおい)など、季節を問わず通年使用されるかさねの色目もあります。

平安時代には、四季の移ろいを服装の彩りに取り入れることで、日本独自の服飾文化が発展しました。性別や年齢などによって好まれる色はありましたが、男女差はあまりなかったようです。現代人にとって、かさねの色目は派手な色合わせに感じられるかもしれませんが、ベーシックな色づかいに何か差し色がほしいとき、かさねの色目を取り入れてみてはいかがでしょうか。


<参考文献>
かさねの色目 平安の配彩美 長崎盛輝著(青幻舎)


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