人材育成・社員教育

「管理職=罰ゲーム」にしたのは会社か、若者か。割に合わないとされる管理職経験の「大きな価値」とは

昨今、「管理職になることは罰ゲームのようだ」として、管理職になることを避けようとする人が増加しているという。これはなぜだろうか。また、管理職を罰ゲーム化させない職場の体制づくり、「管理職経験の価値」とは?

小松 俊明

執筆者:小松 俊明

転職のノウハウ・外資転職ガイド

管理職は罰ゲームか

管理職はいつから「罰ゲーム」になった?


どんな仕事をしていても、組織で働く限り、いずれは管理職(職場のリーダーなども含む)への道が開けてくる。仕事に必要な知識やスキルを蓄積しているからである。他のメンバーよりも経験や実績があり、特に周りからの人望のある人は職場で管理職に抜てきされやすい。管理職になる日を想定して、日々仕事を頑張っている人もたくさんいることだろう。一方、若い世代の間では、「管理職になることは罰ゲームのようだ」として、管理職になることを避けようとする人が増加しているという。これはなぜだろうか。

職場にいる「給料が高くて非管理職」の中高年世代が理想の働き方?

管理職の仕事の特徴は何か。「仕事の責任が重い」「裁量が増える」「チームを動かし、より大きな仕事をする」「よい待遇を得る」などが代表的だろうか。管理職になることで待遇が上昇するため、多くの人は管理職になることを目指すはずだった。

現役の管理職が多い中高年世代にとって管理職になることは、長い年月かけてキャリアを重ねていく中での通過点の1つであった。主任→課長→部長→役員→社長というように、社内の役割は段階を踏んで変化し、それぞれの段階で求められる能力は高度化していくものだ。自分の能力や適性、やる気、事業環境、人間関係、それに加えて景気や競合先の動き、業界事情などが影響して、タイミングはまちまちにはなるが、社員は長い年月をかけて組織の中で管理職として成長していくものである。

しかし昨今、管理職になりたくない、管理職は罰ゲームであると考える人が増えてきているという。「管理職は割に合わない」と考えているようだ。その背景には、管理職と非管理職との間で賃金がフラット化している傾向などがあるのだろう。管理職になってもそれほど待遇が良くなるわけでもない、管理職になったら部下の管理までしなければならず、明らかに仕事量が増えるなど、いわゆる“コスパ”“タイパ”が悪い認識があるようだ。

例えば、年功序列色の残る職場には中高年の管理職が多いが、一方でポスト不足なために部長付、課長付という立場で、給料は高いが実質平社員として職場で働く中高年世代がいる会社は少なくない。その数は特に大企業ではかなり多いはずだ。部長付や課長付は社歴の長い先輩社員たちであり、経験豊かなベテラン社員である。

職位上は管理職待遇だが、実質的には管理職の役割を担っていない。会社によっては若い世代とほぼ同じ仕事をしながら給料は高い。部長や課長という役職がついた管理職と部長付・課長付の給料差は、実はそれほど大きくないことが多い。このような組織構造のある会社では、若い世代はいろいろと責任の発生する管理職になるよりも、給料は高いが管理職の仕事をしなくてもいい部長付や課長付になる方がいいと考えるようになるかもしれない。また、長期にわたって部長付・課長付をすることになった中高年世代にとっても、管理職を目指そうという気持ちが薄れてしまう現実もあるだろう。

「管理職への抜てきの仕方」「教育体制」は適切か

また、最近の「管理職=罰ゲーム」という見方の原因に、管理職への抜てきの仕方(経緯や教育の有無など)の問題はないだろうか。つまり、職場や職場環境が管理職を育てるという基本的なあり方が抜け落ちている会社が増えてきてはいないか。

例えば、良い管理職の下で仕事をした部下は、良い管理職になるものだ。手本がいたこと、そしてリーダーと一緒に働く際に必要なフォロワーシップ(チームの成果を最大化させるために、自律的・主体的にチームリーダーや周りのメンバーに働きかけて支援すること)を学べたことで、いずれ自分が管理職になった時に、どのようなリーダーシップを発揮すべきか、そのイメージがつきやすくなるためだ。職場は管理職になるための教育も適切に行わなければならない。それまでプレーヤーとして貢献してきた社員を何の教育もなしに突然管理職に抜てきし、力を発揮せよというのは丸投げにすぎない。

最近は、業務のオンライン化が進み、社内の人間関係が希薄になってもきている。その結果、上司と部下の人間関係が深まっていないため、管理職になって部下の管理をすることは昔以上に負担に感じやすくなっているだろう。一昔前ならば、初めて管理職になって自分の部下を持った時には部下を飲みに誘って、相手におごってあげながら互いの距離を縮めた経験を持つ中高年世代は多いはずだ。今の時代、そのようなこともやりにくくなっているに違いない。

管理職を罰ゲームではなく、「魅力的な役職」と認識してもらう

大企業の社員を中心に、日本の職場では平社員を10年から15年にわたり経験する人が多い。この長い期間を通して「管理職はワリが合わない」と感じるようになる人もいる。

海外では、1つの仕事を5年もすれば何らかの形で管理職(職場のリーダーになり、マネジャーという肩書がつくなど)になる人が多く、20代で管理職になることは全く珍しいことではない。日本でも小・中規模の会社やベンチャー企業、外資系企業では平社員として長く働く必要はなく、早期に管理職に抜てきされている人は多い。

小さな組織のリーダーだとしても管理職として働くことでさまざまな経験を積み、手本となる先輩から指導を受けるなど、キャリアを自らの手でデザインするつもりで主体的な行動を習慣づけることは大切だ。若いうちに管理職に挑戦できる環境に身を置いて実績を重ねること、つまり年功序列に頼らずに自分の力で自分の給料を上げていくことを実感できるとなおさら良い。若いうちから“コスパ”“タイパ”を追求して「ゆるく」働くことを目指すより、若いからこそ、管理職経験を通して成長の機会を得ることに大きな価値がある。

若い世代が理想とする「部長付」や「課長付」も、本来的には管理職になるための訓練を受けたベテラン社員たちであり、管理職予備軍である。管理職になる資質や能力がないのではない。確かに部下の管理や部署の結果責任を部や課を代表して1人で負うことはないが、いつでも現在の部長や課長の代わりに管理職になる心づもりが必要なポストである。部長や課長を補佐し、時には部長や課長の役割を一部代行することもある。結果として、部長や課長にならない部長付や課長付も数多くいるが、スポーツチームの運営と同じで、代表選手には控え選手がいるからこそチームは勝利できるのである。

DXやAI技術も進み、業務の効率化が可能になってきている。職場としては、社内稟議などの手続きの煩雑さを解消し、無駄な会議を減らすなどして管理職の負担を減らし、もっと管理職の仕事の魅力を高める努力に取り組む必要があるだろう。管理職を目指すことは成長の機会を得ることであり、多くの人にとって自己実現の場になれば、組織に健全な競争状態を取り戻し、若い世代がもっと管理職を目指してくれるようになるのではないだろうか。
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