人間関係

「体育会系」組織は弱い?男子バレーの好調と「上下関係」にこだわらないチームワークの強さ(2ページ目)

日本のチームスポーツには中学校時代の「部活動」から続く上下関係がつきまとうものだが、パリ五輪に向け好調な日本男子バレーにはそれがない。日本の組織に根強く残る「上下関係」には、それでもメリットがあるのだろうか。(写真:長田洋平/アフロスポーツ)

亀山 早苗

執筆者:亀山 早苗

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強固な上下関係に疲れて退職を決意した矢先

上司に言ったこともあるが右から左に聞き流された。

「会社を辞めようかなと思っていたとき、別の部署の部長から声をかけられたんです。私のことを見ていてくれたみたいで……。『あなたはいつも悔しそうな顔をしているよね』と言われました。その部長は、部下の声を聞いてくれると評判だったので、どうせ辞めるなら、この人に何もかもぶちまけようと」

今の部署の不満、希望、自分のやりたいことなどをしゃべり続けて、気づいたら2時間が経っていた。

「うちの部署においで、と一言。異例の早さで翌週から異動になりました。初日に部長は、部員を全員集めて『おもしろい人材だから、この人のおもしろさを生かしてやりたい』と言ってくれたんです。すると同僚が『部長がおもしろいっていうことは、彼女はかなり変わってるってことですか』って言って、みんな笑っていて。なんだかここは雰囲気が違うと思いました」

言いたいことを言える雰囲気はあるか?

「何でもオープンに、言いたいことを言い合いましょう」と題目を唱えられても言えるわけではない。言えと強制されても困るだけだ。つまりは「言える雰囲気」を上が作らなければ、みんなにとって居心地はよくならない。

「部長はとにかく調子がいい。明るくてさっぱりしていて、でも個人的な秘密は厳守してくれる。私たちの知らないところで他部署と調整したり、役員に話を通したり。それを部下には言わないし、仕事がうまくいくと『みんなの突破力はすごいな』とねぎらってくれる。決して自分が何をした、とは言わない」

異動したばかりのころ、取引先に一緒に行ったことがあるが、部長は世間話ばかりしていた。あとから、それはリナさんが今後の仕事をしやすいように下地を固めてくれたのだということがわかり、彼女はいたく感激したという。

「人格者に見えない人格者というのかな、全然立派な感じじゃないのに、想像できないくらい度量が大きくて懐が深い。ふだんは冗談ばかり言っていて、若手の女性社員から『部長、うるさいっす』と注意されるくらい。

でもみんな部長が大好きなんですよ。だから先輩後輩の上下関係もほとんどなくて、後輩が先輩に言いたいことを言える。部長自身が『長く生きてりゃいいってもんじゃないんだよ、人間は。道端を歩いているアリからだって学ぶことはある』と酔って言ったことがあって、この人は本気でそう思ってるんだなと思いました」

人に恵まれれば、人間は変わる。変わるわけではなく、本来の良さが引き出されるのだろう。上下関係がきちんと機能することがよしとされてきたあらゆる組織だが、今となっては、そのデメリットのほうが大きいのではないだろうか。
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