だいたいその年に活躍した著名人やスポーツ選手が初登場することが多いが、実は次回の「理想の上司候補」として注目されているのが、Jリーグ町田ゼルビアの黒田剛監督だ。
2年前まで高校教諭として青森山田高校サッカー部の監督をしていた黒田監督が、2023年J2町田の監督に就任するとその年にいきなりJ2で優勝。そして初昇格したJ1でも首位争いをしているという驚きの成果を叩き出している。
プロサッカーチームの監督として高い評価を得ている黒田監督だが、実はそのリーダーシップや人材育成の手腕から、ビジネス界からも注目されているリーダーの1人となっている。
黒田監督のリーダーとしての価値や魅力はどんなところにあるのだろうか。
サイバーエージェント藤田社長が「1つの事業を任せられる」と高評価
高校教諭であった黒田監督をいきなりプロサッカーチームの監督として抜てきしたのは、あのサイバーエージェントの藤田晋社長だ。サイバーエージェントは2018年に町田の経営権を取得し、2022年には藤田社長が自ら町田の代表取締役兼CEOに就任した。そんな藤田社長がチームの監督として招へいしたのが、当時青森山田高校で総監督をしていた黒田監督だった。選手としてもコーチとしてもプロ経験のない黒田監督を起用するというのは、サッカー関係者にとっては理解に苦しむ人事だったが、藤田社長は経営者の目線で、黒田監督の「マネジメント力」を高く評価した。
藤田社長は、
「リーダーとして極端な話、ウチのグループ会社の社長をやっても結果を出しそうな感じの人ですね」
と取材の中で語っている。
町田は新体制になってからコーチが8人増員され、通訳やトレーナーも含めると15人程度のスタッフが練習に関わっている。選手も30人以上いるのでバックオフィスのスタッフも合わせると40~50人の組織をまとめるリーダーとなる。そしてオーナーである藤田社長が目指すビジョンやチームの方向性を、現場で実現させていくという立場を考えると企業でいえばまさに「事業部長」のようなポジションだろう。
そんな置かれている立場や経営者としても有名な藤田社長の評価から、世のビジネスパーソンたちが「組織を率いて成果を出しているリーダー」として黒田監督に注目しているのだ。
町田ゼルビア躍進の秘密は、黒田監督の「選手の才能を開花させる力」
サイバーエージェントが親会社になってからは、その豊富な資金によって練習施設などの環境面が整備された。新戦力の獲得も、各チームのトップ選手を引き抜いてきたのかと思うが、実はそんなことはない。今季町田に加入し活躍している選手の多くは、昨季まで他のチームで控えに甘んじていたり、高校時代は無名だったりした選手が多いのだ。
例えば現在町田の得点源として大活躍している呉世勲(オ・セフン)は、2022年から昨季まで清水エスパルスに在籍しており、2年間通じて38試合3ゴールという結果で控えに留まっていた。今季町田に期限付き移籍してからは、ここまで17試合にスタメン出場で6ゴール1アシストという素晴らしい結果を残している。
また「町田のスピードスター」として圧倒的なパフォーマンスを見せている平河悠も、高校時代は無名で卒業後は就職も考えていたほどだったが、山梨学院大学に進んでサッカーを続けた結果、そのスピードが評価され2021年に町田の特別指定選手となった。
無名で実績もなかった2人の選手だが、町田に来て黒田監督の元で才能が開花し、呉は韓国代表に初招集、平河もU-23日本代表に選出されている。
黒田監督の「選手の才能を開花させる方法」はとてもシンプルで、その選手の明確な強みを見出し、それが生きるチーム戦術を徹底することで、その選手がその力を発揮する場面を多く生み出すのだ。
194cmの長身でハイボールに強い呉が、自陣からでもロングボールを蹴り込み空中戦で競り合いをし、そのこぼれ球を確実にマイボールにしディフェンスラインの裏のスペースにパスを出して俊足の平河が走り込む。サイドからのセンタリングにまた長身の呉がヘディングを狙いにいく、という戦術を町田は徹底的に繰り返す。「高さ」と「スピード」という選手が持つそれぞれの強みを生かす戦術を徹底することで、選手の才能を開花しながらそれをチームの成果にもつなげているのだ。
ビジネスの現場でも、メンバー1人1人にはそれぞれの強みがあり、それを発揮できていなければチームとしてのパフォーマンスも上がらない。その強みを見極める力と、その強みを生かす戦略を実行できるかどうかもビジネスリーダーには必要な力だ。
チームの意識を1つにする、黒田監督の「言葉で伝える力」
オーナーである藤田社長が最も評価する黒田監督のリーダーとしての素質の1つに「高い言語化能力」があるという。絶対に負けられない場面では厳しい表現で選手たちを鼓舞し、逆にリラックスして休ませるときは言葉のトーンを変えながら伝え、選手の状態を場面に応じてうまくコントロールしている。週の最初の練習日には、次の試合に向けて黒田監督からパワーポイントのスライドを用いた短いプレゼンテーションがある。そこで前回の試合の改善点と、今回の試合に向けて注力すべきテーマを選手にインプットし、練習メニューに入っていく。そのプレゼンテーションでのコミュニケーションの質が、町田の試合における「戦術の徹底」につながっているのだ。
黒田監督はプロチームの監督経験はないが、この「伝える力」に限って言えば、高校教諭として長く高校生を指導してきた経験が大いに生きているのではないかと思う。
15~18歳のまだまだ精神的にも肉体的にも発展途上の生徒たちに、できるだけ分かりやすいように戦術や練習の意図を伝え、時には厳しく叱り、時には優しく褒める経験を豊富にしてきた黒田監督だからこそ、プロサッカー選手に対してのコミュニケーションも他の監督とは違うのだろう。
サッカー選手でなくても、黒田監督のようなリーダーの下で、自身の才能や強みを発掘し、それらを仕事の中で開花させることで成果を出し、自分の可能性を広げたいと思う人たちが多くいるのも納得できる。
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