相続税調査の対象になる資産家は、驚くほど倹約するという
相続税調査の対象になるようなお金持ちには、どのような人が多いのだろうか。都内に大きな豪邸、数千万円の高級外車、シャンパンで連日パーティー、といった生活を思い浮かべるかもしれないが、実際は真逆の生活をしている人が多いのだとか。相続税調査で数多くのお金持ちと接した元国税専門官の小林義崇さんに、「本物のお金持ち」の暮らしぶりについて伺いました。
相続税調査の対象になるのは、どんな人?
――相続税調査の対象となるのは、どのような資産規模や職業の人が多いのでしょうか?小林さん:私が相続税調査を主に担当していた2000年代後半でいうと、調査が行われるのは資産規模でいうと、3億円を超える人が多かったです。会社経営者や個人事業主のように、何らかのビジネスをしている人が多く、ある程度倹約な生活をしてお金を貯め続けた資産家が大半ですね。なかには年収としてはそれほど多くないのに、コツコツ貯めて億単位の資産を築いた方もいました。
対して、外資系会社員のような超高年収(*約2000万円超)の部類の人は、定年後に収入が継続できなければ、貯金を取り崩して生活します。そのため、あまりお金が残っておらず、相続税調査の対象にならないケースが多いです。超高収入の会社員に相続税調査が入るのは、定年後、数年で亡くなってしまうパターンなど限定的でした。
*編集部注釈
――超高収入の人に相続税調査が入るのは限定的、というのはちょっと意外ですね。
小林さん:若いうちから高収入な人ほど、生活は派手になる傾向もあり、そこまで資産が貯まらないケースも多いですね。1つの要因としては、車の使用頻度が高くないのにベンツなどの高級外車を買ったり、経営者であれば経費と称して不相応の高いオフィスに入居したり、とにかく無駄遣いが多いです。他にも夜の飲み屋でシャンパンを入れるなどの交際費の使い方も豪快。ブランド品を買いそろえるなど、見栄のための消費が多いように感じました。
当たり前ですが、いくら超高収入であっても、湯水のようにお金を使えば資産は貯まりません。結果として、相続時にはあまりお金は残っていないというわけです。
――「超高収入である」=「数億の資産を持っている」というわけではないのですね。
小林さん:超高収入の人は、手元にお金がある分だけ使ってしまう人が多い。以前、超高収入の人で保有していた未上場株が買収されて、もともと100万円ぐらいで取得していた株が数億円で売れた事例がありました。当然、利益は課税対象になるのですが、申告がないので税務調査に行くと、そのお金を全部使い切ってしまって納税できないなんて話も。お金を残すという意識がほとんどないんですよね。
他にも、会社で借りたお金で経営者の高い役員報酬を支払うなんてケースも。社長個人は派手な生活をしていて一見お金持ちだけど、会社には多額の借金があって、経営的には苦しい状態です。
お金持ちは驚くほど倹約する
――超高年収であまり資産がない人と比べると、相続税調査の対象になる資産家の生活ぶりはどう違うのでしょうか。小林さん:無駄遣いが目立つ超高年収と対照的で、資産家の生活は質素です。相続税調査は自宅で行われることが多いのですが、まず驚くのはモノの少なさ。家にはブランドものがそこら中に置かれているようなイメージがあったのですが、家の中はきれいに整頓されていてすっきりしています。高価なものがそこら中に置いてあるなんてことはなく、買い物が趣味といった印象もまったく持ちませんでした。
加えて、服装もびっくりするほど普通。それこそユニクロを着こなし、日常的にブランドもので着飾るような様子はありませんでした。もちろん、大事なときに着る高価な服は持っていると思いますけどね。
――質素な生活だとは意外でした。他にも一般人が抱く資産家のイメージと違った、というような出来事はありましたか?
小林さん:むしろ普通の家庭よりもお金を使わないように徹底していると感じることが多かったかもしれません。実際に、税務署で勤めていたときも相続税について相談したいという女性から開口一番「電話を折り返してください」と言われたことがありました。向こうから電話をかけてきたのに、突然びっくりしますよね(笑)。後から話を聞くと、数億円単位の相続財産のあるお金持ち。当時の先輩に聞いてみると、この女性に限らず、お金持ちの人が余計な電話代を払わないために折り返し電話を求めるのは珍しくはなかったようです。
他にも、相続税申告書を税理士に依頼する費用がもったいないからと、多額の遺産を相続したのに税務署のカウンターで職員に聞きながら作成している人もいました。なんで億単位の資産があるのにこんなところでケチるのだろうと思いもしましたが、ここまで徹底できたからこそ資産家になれたのだとも思います。
――逆に資産家が大きくお金を使うのはどのような状況でしょうか。
小林さん:大きなお金を使うパターンは、過去の経験から基本的に3パターンのみでした。1つ目は相続税対策としてタワーマンションなどの不動産を買って節税する。2つ目は子どもや孫に住宅取得資金贈与の特例などの制度をうまく利用してお金を渡す。3つ目は介護付きの老人ホームです。老後は割と寂しいと感じる人が多く、資産家になればなるほど、孤独になりがちな傾向があるようでした。同じような生活環境や収入レベルの人たちと話せる機会は貴重みたいで、友達(お金持ち)が入るから、私も老人ホームに入るといったこともあるようです。
お金持ちの中には、お金持ちに見えないような生活ぶりの家庭が多くある
――相続税調査の対象になるような家庭は、みんな支出管理を徹底しているような感じでしょうか。小林さん:はい、そうですね。一方、資産家ではあるものの、本当に使えるお金が少ないケースもあります。例えば、単に土地建物だけ持っていて、ほとんど運用していないというケースです。そのため、資産で見ると数億円の財産があるのに、通帳を見ると多少の家賃と年金収入合わせて毎月30万円も使えるお金がない。不動産はあるけど、現金があまりないので、豊かな生活とは程遠い暮らしをしていて、意外に感じたのを覚えています。土地や不動産は貸し出すなどで運用しないと何も収入を生まないうえ、固定資産税などの支出も発生してしまいますからね。
――多額の相続税が発生するような資産家は、高級品に囲まれて生活をしているようなイメージが強かったので、どの話も意外に感じました。
小林さん:超高収入の人の一部は高級外車や飲み代といった、多くの人が想像するお金持ちの振る舞いをしますが、相続税調査に入るボリュームゾーンである資産3億円超の家庭は、質素な暮らしをしている人がほとんどです。銀行通帳で亡くなる前のお金の動きを調べますが、生活費も一般の家庭と変わりません。数百円の手数料まで家計簿をつけて1円単位で支出管理をしている人もいるほどです。
ここまで支出管理を徹底しているからこそ、数億円規模の財産が残せるのではないかというのが、私が相続税調査で多くのお金持ちと接した感想です。正直言って、相続税調査で派手にお金を使っている資産家は見たことがありませんね。
小林義崇さんの著書『元国税専門官がこっそり教える あなたの隣の億万長者』
小林義崇さんの著書『すみません、金利ってなんですか?』
1981年、福岡県生まれ。西南学院大学卒業。東京国税局の国税専門官として2004年から13年間、相続税調査などの業務に従事。2017年に東京国税局を退職し、フリーライターとして書籍や雑誌、ウェブメディアの執筆活動を行うほか、自分自身のYou Tubeチャンネル「フリーランスの生活防衛チャンネル」を運営している。著書に「元国税専門官がこっそり教える あなたの隣の億万長者」、「すみません、金利ってなんですか?」など10冊がある。
取材・文/七海 碧
不動産・金融に特化しているフリーライター。「本質を捉えて分かりやすく伝える」をモットーに、初心者でもすぐに理解できるシンプルな言葉で説明することが得意。ファイナンシャルプランナー、資産運用検定資格を保有。