立場が上になったら“パワハラ”なのでは?
その後、エミコさんが昇進し、実質的にマキさんの直属の上司になった。「半年ほど前、私たちの部署の仕事が立て込んでいた時期に、私の父が倒れたと仕事中に連絡があったんです。飛行機でいかなければならない距離だし、今日はものすごく忙しいしと思っていたら、隣の席の同僚がどうしたのと聞いてくれて。
父の話をしたら、それはもうすぐに帰ってあげなさいよって。上司であるエミコさんに言おうと思ったんですが、姿が見えなかったので部長に直接言ったら、やはりすぐに行ってあげなさいと。あわてて支度してそのまま空港へ行ったら、エミコさんから電話があったんです」
直接、話ができなくて申し訳ありませんとマキさんが言うと、「LINEをくれるとかメールするとか、そういう方法はなかったの?」といきなり言われた。そこまで頭が回らなかったし、部長には言ったしと言いかけると、「もういいわ、どうでも」とエミコさんが冷たい声を出した。
「あなたの親がどうなろうと私には関係ないの。それより今日の午後からの取引先との会議だけど、ファイル、ちゃんと共有しておいてくれた?って。見ればわかるはずです、きちんと共有しているし、先日のやりとりも全部書いてありますと言うと、あらそう、じゃあねと電話が切れました」
わざわざ電話までしてきて言うことだろうかとマキさんは首をひねった。ファイルの共有は基本的なことだし、いつもきちんとしていることをエミコさんは知っているはず。
「こっちは父が急に倒れたと聞いて、気持ちが焦っているし不安でもある。私は遊びに行くわけじゃないのに……」
同性同士のハラスメントを軽視してはいないか
その日の午後は確かに大事な会議があった。それを欠席するマキさんに、エミコさんは腹が立ったのかもしれない。だがこれは不測の事態だ。しかも、誰もが陥る可能性のある事態である。「そういうことにいちいち腹を立てていたら、チームのリーダーなんてやってられませんよね。人間、病気になることもあるし、私のように不測の事態で離脱することもある」
納得がいかなかったマキさんは、父を見舞って帰ったあと、エミコさんからの嫌がらせを部長に告げた。同僚たちからもヒアリングをし、エミコさんに注意をしたようだ。
「今のところ、ことは大きくなっていませんが、彼女がこのまま嫌がらせを続けるようなら私たちにも考えがある。些細な嫌味なら許される、というわけではないと思うんです。
職場は、男性のささやかなジョークをセクハラだとやたらと認定するくせに、同性同士のこういった出来事は小さく考えがちなんですよね。おっさんのくだらないジョークは流せても、同性の先輩の嫌味はけっこう堪える。そういうことも考えていってほしいと思っています」
立場が違えば立派なパワハラとなりうる。とはいえ、大ごとにしたくないマキさんは、エミコさんと腹を割って話せる機会を狙っているが、あの一件以来、エミコさんはマキさんを避け続けているという。