いつも遅れて現れるママ友
それだけではなく、彼女はママ友たちとファミレスなどに行くとき、いつも遅れて合流する。「私たちがドリンクバーなどを頼んでいると、あとからやってきて『ね、少しちょうだい』と持ってきた紙コップを出すんですよ。あげく、食べているものも『お腹すいてないんだけど、少しだけ味見させて』と。それでいち早く引き上げるわけです。他のママ友は『まったく、あの人はいつもああよね』と呆れながらも慣れている感じでした」
ユリさんは、エミカさんはそれほど経済的に困っているのかとママ友たちに尋ねたが、「さあ、もうああいう人だと思っているから、家庭の事情まではわからないわ」と言うばかり。エミカさんの家の場所を聞いて、ユリさんは行ってみることにした。
「ちょうど小さくなって履けない息子の靴があったので、それを持って行きました。教えてもらった自宅は、とんでもない邸宅でしたよ。ドリンクバーをごまかしたりキャベツを半分さらっていくような経済状態とは思えない。
家の前で立っていたら、たまたま中から女性が出てきたんです。エミカさん、いらっしゃいますかと尋ねたら、『うちの嫁が何かしましたか?』って高飛車な言い方をされて……。『あの人は育ちが悪いから』とも言ってて」
話せない事情を抱える人もいるのだ、と
エミカさんの家庭での立場を知ったユリさんは、急にエミカさんが気の毒になった。彼女は優雅な専業主婦のように振る舞いながら、せこせこと「こすっからい」ことを繰り返している。だがもしかしたら、彼女は自由になるお金をまったく持たせてもらっていないのかもしれない。「あるときエミカさんをつかまえて、『もし困ったことがあるなら相談して。私のいとこが弁護士をしているの。女性の立場をよくわかっている人だから』と伝えました。エミカさんは今、いとこの弁護士に相談をもちかけているそうです。守秘義務があるからいとこからは何も聞けませんが、彼女にとって状況が好転すればいいなと思っています」
ユリさんにとっても話は意外な方向に進んでいったそうだが、実はそういうことはあるのかもしれない。人には話せない事情を抱えながら、日常生活を送っている人もいるのだ。
「ただのこすっからいケチなママ友、という話で済んだほうがよかったような気もしますけどね」
ユリさんは複雑な表情でそう言った。