ひたすら働かされて「本当に悔しい」
トモミさんのマンションで、バザーが開かれたことがあった。主催はマンションの住人たちなのだが、なぜかトモミさんが代表者に推された。越してきて日が浅いし、前のバザーも知らないからと言ったのだが、「大丈夫。あなたがいちばん時間があるんだから」で押し切られた。「準備が大変でした。以前やった人に聞かなければならないことが山のようにあるのに、その彼女は仕事が忙しいからとろくに相談にものってくれない。他の人も『うちは子どもがいるから大変なのよ。適当でいいから』って。結局、年配の人たちに手伝ってもらってなんとか形にすることができたけど、子どもがいるからと何もかも押しつけられて、あのときは本当に悔しかった」
子どもがほしいのにできない自分が、どうして子どものいる人たちのために不妊治療の予定を変更してまで尽くさなければいけないのかと思うと、涙が出てきたという。
「バザーが終わって後片付けをしているとき、半年後にまたやるからよろしくねと何人もの人に言われて、なんだか気持ちが高ぶった。『子どもがいるからって偉そうにしないでよ。私だって何年も不妊治療してるのに……』と大きな声で叫んでしまったんです。治療のことは誰にも言っていなかったので、周りはドン引きしてましたね」
その後、彼女はほとんど何も頼まれることはないが、一方で周囲とはギクシャクした関係が続いている。
「そんなに子どもに執着しなくてもいいのにねと住人同士が話しているところに遭遇してしまったこともあります。会釈だけして通り過ぎたけど、私のことを言ってるのは明らか。別に子どものいない人間に配慮してくれとは言わないけど、ファミリータイプの住居なので、やっぱり子どもがいないとただでさえ肩身が狭いのは痛感しています」
「子持ち様はね……」と言われないように
子どもたちが共有部分を汚すことが多いのに、管理費は子どもがいない世帯も同じなのは納得がいかないとトモミさんは言う。「昨年、マンションで避難訓練があったんですが、最優先は子どもなんですよね。もちろん、それはいいと思うけど、高齢夫婦の世帯が無視されているようで、こういうやりかたで本当にいいんですかと思わず言ってしまいました。子どもがいる世帯が多いからって多勢に無勢みたいなことではいけないはず。命の重みは一緒でしょう、と」
そのときも自分は浮いてしまったと彼女は言う。そんなとき、彼女はようやく妊娠することができた。今はやっと安定期に入ったところだ。
「これから自分も子持ち様になる。そう思うと、すでに視点は子どもにシフトしているんですよ。実際、子どもが生まれたら、子どものいない人、子どもに手のかからない人に手伝ってもらえないかなと虫のいいことを考えている。それでもなんとか、私は皮肉で『子持ち様はね……』と言われないよう、中立公平を目指そうと思っています」
少しふくらんだお腹を愛おしそうに撫でながら、トモミさんは笑みを浮かべていた。