確実な何かがほしくて、夫の居ぬ間に……
40代に入り、下の子も小学校に上がるとようやく彼女はパートに出るようになった。子ども関係のママ友とはあまりうまくいかなかったが、パート先では友人もできた。「近所にできたスポーツジムに行ったり、昔からやりたかった刺繍を習い始めたりして、少しずつ自分を取り戻していくような感覚がありました」
コロナ禍で一時期、自宅待機になったこともあるし、娘たちの反抗期に手こずったこともあるが、「なんとか」家庭を維持してきた。夫から暴力を受けることもなく、特に嫌味を言われることもない。それでも夫への不満は常にくすぶっていたという。
「更年期なんでしょうか、このところ自分の老いが気になってしかたがなかった。正直言って、上の子が去年、大学生になって急にきれいになったのを見て、失われた若さに執着するようにもなりました。化粧品を変えたりもしたけど満足できない。相変わらず夫は、私にはあまり関心がない。女として終わりなんだろうかとどんどん不安になっていきました」
半年ほど前のことだ。夫が2週間ほど海外に出張することになった。これまでもたまに出張はあったが、せいぜい1週間だった。夫のいない間に何かしたいと気持ちが逸った。
「それで整形したんです。目をくっきり二重にして小顔にするために糸を使ったリフトアップ、ヒアルロン酸注入などもして……。なんだかんだで80万ほどかかりました。娘たちには『何やってんの、おかあさん』と言われたけど、自分がパートで稼いだ貯金を使ったのだし、文句を言われる筋合いはないと……。数日間は腫れましたが、夫が帰ってくるころには自分では大満足でした」
整形した私の顔を見て、夫の反応は?
そして夫が帰宅した日。長女はアルバイトで帰宅が遅く、次女は受験のための塾でこれまた遅い。夫は不満げだったが、ユカコさんは夫の好物を作ってねぎらった。夫は彼女の作った料理を「うまいなあ」と食べてくれたが、顔を見ても何も言わない。「ねえ、なんか気づいたことない? と聞いたら、夫は首を傾げている。それからリビングを見渡して『模様替えした?』って。まったくしてないわよと言うと、ふうん、わからないって。私の顔を見ながらそう言うわけです。パート先では『すっごい。30代でも通るわよー、若返った』とみんな大騒ぎだったから、夫も喜んでくれると思ったんですけどね」
何があったの? と言う夫には答えず、ユカコさんはキッチンでため息を繰り返したという。その後、娘たちが帰宅、ユカコさんの整形が話題になると夫はムッとしたように押し黙った。
「その晩、寝室で夫が冗談交じりに『整形までして若返って、男にモテたいと思ってるの?』と。ビックリして声も出なかった。傷つきました。『あなたと私の間には、こんなに大きな溝ができてたんだね』とようやく言うと、夫は『意味わかんない』って」
どうやらその後、長女が「おかあさんはおとうさんの関心を買いたかったみたいよ」とユカコさんの気持ちを夫に伝えてくれたようだが、優しい言葉をかけてくれることはなかった。
「そのまま今に至ってる。そんな感じですね。私の整形は徒労に終わった。夫は不気味に思っているのかもしれません。娘が言うには、お父さんも気持ちの整理ができないみたい、出張して家に帰ったら、その間、妻が整形してたなんて、ちょっとショックだったんじゃないのと。それもそうかもしれないけど。娘には『整形マニアにならないでよ』と釘を刺されました」
ユカコさんは、整形前の写真を見せてくれた。確かに格段に若く美しくなっているが、表情はどこか暗い。