Q. 「赤ちゃんの手足が温かくなったら、ぐっすり眠るサイン」ですか?
もうぐっすり眠ったのか、まだベッドに置いたら起きるのか……見極めのコツは?
A. 本当です。手足が温かくなるのは入眠の準備をしているサインです
赤ちゃんの手足が温かくなってくるのは、科学的にも「入眠の準備中のサイン」と思って間違いありません。私たち人間は恒温動物です。体温は、夏でも冬でもほぼ一定の36~37度に保たれるようになっていますが、体や脳の状態に応じて、微妙に上下変動もします。とくに体温と密接な関係があるのが、睡眠と覚醒です。実は体温はどの時間も一定なわけではなく、24時間周期で上がったり下がったりを繰り返しています。これを「体温の概日リズム」といいます。具体的には、夜間の睡眠中に体温は低く、日中の覚醒時に体温は高くなり、その差は0.5~1度くらいあります。ただし、ここでいう「体温」とは、体の内部の温度のことで、「深部体温」と呼ばれるものです。手足などの皮膚表面の温度は、深部体温とは逆の変化をします。
私たちが体温を一定に保つためには、自律神経系や内分泌系など様々なしくみが働いていますが、自律神経系による調節の一つに、皮膚血管の収縮・拡張反応があります。具体的には、深部体温を下げるために、皮膚の血管を拡張させて、体の中にたまった熱を外に放散させます。このとき、手足の皮膚表面は少し赤みを帯びて、ぽーっと温かくなっています。逆に深部体温を上げるためには、皮膚の血管を収縮させて、体内の熱を外に逃がさないようにします。このとき、手足の皮膚表面は白く、冷たくなっています。
つまり、手足の表面が温かいときは深部体温が下がり、手足が冷たいときは深部体温が上がるのです。
少し専門的になりますが、睡眠のスイッチを入れる役割を果たす「睡眠中枢」は、脳の視床下部の腹側背側視索前野(VLPO)にあります。そして、VLPOの神経細胞には、温度感受性があり、深部体温が低くなったときに活動が高まるという特性をもっています。そのため、私たちが自然と睡眠モードに入るときには、皮膚の血管を拡張させて体内の熱を外に放散させることで深部体温を下げ、それによってVLPOの神経細胞を働かせて睡眠のスイッチが入ります。つまり、手足の皮膚表面がぽーっと温かくなってきたときが、入眠のベストタイミングなのです。
このしくみは、大人も子どもも同じです。ですから、赤ちゃんの手足が温かくなってきたタイミングで寝かしつければ、ぐっすり眠ってくれるというわけです。小さな赤ちゃんのお世話は大変だと思いますが、人体のちょっとしたしくみを知っていれば、育児の負担を減らすのにも役立てられるかもしれません。
■関連記事