投資資金がなくなり、ついに定期預金を解約……
フリーの漫画家・イラストレーターの深蔵さん(40歳)は、株式投資を始めて1年半で何度も失敗し、総額500万円の損失を経験しました。その後は投資手法を大きく転換し、現在は日本株の上昇に乗って運用益を得ています。さまざまな投資手法とその失敗を経験した深蔵さんに、投資初心者が気を付けるべきことや、失敗を経てたどり着いた投資と資産運用の考え方について聞きました。
空売り、思惑買い……に挑戦するもことごとく失敗
――深蔵さんは、これまでさまざまな投資手法で失敗されていますよね。やったことのない手法に挑戦するのは勇気がいると思うのですが……、次はどのような手法に挑戦されたんですか?深蔵さん:いろいろやってみて、株価の上昇を期待して買った銘柄が軒並み下がった時、それなら裏をかいて、「株価が上がると思った株を、空売り(※1)すればいいのでは」と思ったんです。これがうまくいって、当初は順調に利益をあげることができました。
でも、そのうち下落の先読みに失敗してうまくいかなくなったんです。当時は、決算結果が良ければ株価が上がるものだと思い込んでいました。でも、決算結果を見てから投資するのでは、その結果が株価に反映されている場合もあるので、決算が出てから取引するのでは遅すぎることに気付いたんです。
「プロの投資家は、どうやって株価を予測しているんだろう」と思って調べると、「株は思惑で買って、事実で売れ」という相場格言にたどり着きました。ならば、「私も思惑買い(※2)してみよう」と思い立ったんです。その当時、カジノ法案が提出されたタイミングでしたので、可決したらスロットマシーンなどの需要が高まり、遊技機器メーカーなどの株価が上がるだろうと考え、カジノ関連株を売買しました。
その頃から、信用取引の空売りをやめて現物取引に専念しました。思惑買いがうまくいって、5分以内に1万円の利益を得るなど、ギャンブル感覚で取引にのめり込んでいきましたね。最初の信用取引で出した含み損を相殺することができて喜んでいたのですが、それも束の間……。思惑が外れ、買ったら株価が下がるパターンが続き、結局80万円の含み損になっていました。
(※1)証券会社から株式を借りて売却し、その株価が値下がりした時点で買い戻すことによって利益を得ようとする投資方法
(※2)株価上昇につながる材料が出ていない状況で、憶測や予測、あるいは噂等をもとにして株式を買うこと
口座残高がマイナスとなり、ついに定期預金を解約
――次から次へと投資手法を変えたのはなぜですか。深蔵さん:これまで通りの方法では損失を取り戻せないと思い、とにかくやったことがない方法に次々と期待して、何とかマイナスをゼロに戻そうと思ったんです。精神的にも追い詰められていました。友人と出かけている時もずっとスマホで取引画面を見ているような……。映画を観ている最中も株価が気になってしょうがない。まさに「株」中心の生活を送っていました。
――でも、損失が大きくなければ元手もなくなりますよね。資金はどうされていたんですか?
深蔵さん:証券口座で預かり金がなくなり、銀行口座にあった80万円の貯金を充てたら、いよいよ残高がゼロになりました。そのまま放置していたら、残高がマイナスに……。調べてみると、定期預金を担保として自動融資が行われ、普通預金の残高がマイナスになっていたことが分かりました。情けない話ですが、それを機に自分が定期預金をしていたことに気付いて、定期預金を解約して得たお金をまた投資に回してしまったんです……。
いったん、退場するも再起をかけてカムバック!?
――その後、銀行口座のマイナスは解消できたのでしょうか。深蔵さん:たまたまネットの記事で「注目株」として挙げられていたペッパーフードサービス<3053>に投資したところ、株式分割が発表されて株価が暴騰しました。200万円の含み益が出たところで利益確定し、銀行口座のマイナス残高を解消することができました。
その時点で、株式投資をやめようと思ったんです。投資で失敗したせいで、しばらくは何を買おうとするにも我慢を強いられる生活でしたから、普通の生活に戻れたことにホッとしましたね。証券アプリを削除し、仕事の収入だけで生活していこうと決めました。
――でも、やめられなかったと……。
深蔵さん:はい。ニュースを見ると、つい株価が気になってしまい、ネットで値動きをチェックしてしまうんです。気付いたら証券アプリをまたダウンロードしていました。串カツ田中の海外出店の発表に期待して、株式の「購入」ボタンをクリック。運良く利益が出たので、それを売却して再びペッパーフードサービス<3053>を買ったところ、株価が急速に下がって含み損になってしまいました……。
失敗の教訓を得て長期の配当投資にシフト
――その後も投資は続けているとお聞きしているのですが。深蔵さん:2年ほどジリ貧生活(徐々に貧しくなる状態)を続けていたところ、コロナショックで株式市場が大幅に下落しました。そのタイミングを利用して、これまで株価水準が高くて手が出せなかったトヨタ自動車<7203>や任天堂<7974>などの手堅い大手株を買いました。その頃からですね。短期的なキャピタルゲイン(売買差益)狙う投資はやめて、長期的な配当目的の投資を始めました。
――現在の運用状況と、銘柄の選び方について教えてください。
深蔵さん:日本の株式市場が好調なので含み益が出て、配当金も得ている状況です。配当利回りが3%以上で、かつ非減配(減配をせず、配当を維持・増配し続けている)期間が長い銘柄を候補としてチェックし、株価が下がったタイミングで買うようにしています。
デイトレをしていた頃は事業内容がよく分からないまま投資していましたが、今はしっかりと経営状況などもチェックした上で安心できる会社の株だけを買っています。
新NISA、iDeCo、小規模企業共済を活用した堅実な資産運用
――新NISAが話題となっていますが、活用されていますか。深蔵さん:新しいNISA制度が始まってから「つみたて投資枠」を使って、全世界株式に分散投資するインデックスファンド(インデックス型投資信託)に積立投資しています。あわせて「成長投資枠」で飲食、銀行、通信、ゲーム業界の個別株にも投資しています。配当金を得たら使わずに、再投資に回していますね。
それから、フリーランスは厚生年金に加入できませんから、iDeCoや小規模企業共済を活用して老後資金を準備しています。この2つは全額所得控除になりますから、節税にもつながりますし。
――堅実な資産運用をされているようで安心しました! あらためて、投資初心者が気を付けるべきことは何だと思いますか?
深蔵さん:今は日本の株式市場が好調なので、最近株式投資を始めた人は順調に資産が増えているかもしれませんね。ただ、ビギナーズラックで自信を付けて、短期的な取引で大きな利益をとろうとすると私のような大失敗につながりかねません。ギャンブル的な取引は中毒性があると思うので。
株価は上下するものですし、過去にリーマンショックやコロナショックのような暴落が起きたように、将来いつ同じような事態が訪れてもおかしくありません。そのような時も生活防衛資金を取っておきながら、余剰資金で投資していれば、暴落時に持ち株を売却せずに回復するまで保有し続けることができるはずです。
私自身、もう2度と「大きく儲けよう」とは考えず、少しずつ配当金を得ながら長期で資産を積み立てるかたちで運用を続けていきたいです。
<前編はこちら>
1日で年収分のお金を溶かす恐怖。40代フリーランス漫画家が明かす投資初心者の大失敗
深蔵(ふかぞう)
製パン会社営業から社内SEを経た後、漫画家・イラストレーターに転身。フードコーディネーター・薬膳コーディネーターの資格も持つ。オリジナルレシピの考案も得意。著書に『マンガ 株で調子に乗って失敗しました。』(イースト・プレス)、『世界の片隅で地味に生きる』(オーバーラップ)などがある。
取材・文/秋山 志緒
外資系金融機関で広報業務に従事した後に、フリーのライター・編集者として独立。マネー分野を得意としながらも、ライフやエンタメなど幅広く執筆中。ファイナンシャルプランナー(AFP)。X(旧Twitter):@COstyle