富も名声もある人でも「ギャンブル依存症」になるケースはあるのでしょうか(※画像はイメージ)
大谷翔平選手の通訳を務めていた水原一平氏がドジャースを解雇されたとのニュースに驚いた方も多いことでしょう。「水原氏がスポーツ賭博を行い、しかもその負債の支払いに大谷選手の資金を不正にあてたことが発覚したため」と報じられています。大谷選手のメンタルを心配する声や、大谷選手と水原氏との間に何があったのかなど様々な憶測が飛び交っているようですが、まずは水原氏が述べたと伝えられている「自分はギャンブル依存症だ」という言葉について、正しく理解する必要があるでしょう。水原氏は大谷選手をサポートする仕事に恵まれ、金銭的にも何ら不自由なく暮らせる余裕があったと推測されます。それなのに、なぜわざわざギャンブルに手を出して儲けようとしたのでしょうか。
「お金に困っていない人は、ギャンブル依存症にはならない」という誤解
「依存症」と聞くと、麻薬などの精神作用を示す薬物を繰り返し使用した際に生じる「薬物依存症」がありますが、薬物以外の行為によっても依存症になることがあります。その典型の一つが、ギャンブルにはまってやめられなくなる「ギャンブル依存症」です。特に成人男性がはまりやすい傾向にあります。ギャンブルは、当たると莫大な利益を得られるので、「お金に困っている人が、一攫千金を狙ってやるものだ」というイメージを持っている方も、少なくないかもしれません。しかし現実は、逆のこともあります。今回問題となっているアメリカのスポーツ賭博も、相当な資金がないと参加すらできないといわれています。収入があり、生活にゆとりがなくてはできないという面もあるのです。
たしかにギャンブルは、勝てば資産を増やすことができます。しかし「儲け」ではなく、勝った時の高揚感やスリル、ギャンブルをしているときに周りの人に注目されることの快感など、本人が自覚しないうちに、「お金を増やすこと」以外が、真の目的になっているケースも多々あるのです。
「依存症になる人・ならない人」の違いは、その人の「心の状態」
ギャンブルに限らず、「依存症」の本質を理解するために重要なポイントがあります。それは「同じことを行っても、依存症になる人とならない人がいる」ということです。「ギャンブル依存症」の場合も、ギャンブル自体が悪いというよりも、どのような気持ちでしているか、それぞれの人の「心の状態」こそが問題なのです。以前、アルコール依存症になってしまった男性からこんな話を聞いたことがあります。
「自分は普段はあまり目立たない存在だったが、お酒は強かった。飲んでいるときは、みんなに『顔色一つ変えずにそんなに飲んで、すごいなあ』と言われて、そこが唯一、人に注目される、自分の輝ける場所だと感じてしまった。気が付くと、いつもお酒を飲むことで頭がいっぱいになっていた」
同様に、買い物依存症になってしまった女性で、「普段は人から注目されない自分でも、デパートで次々と商品を買い上げると、そのたびに店員が丁寧に接してくれるので、買い物がやめられなくなった」と語る人もいます。
「依存症」になってしまう方は、日常生活に何かしらの欲求不満や閉塞感を抱いており、他の「逃げ場」でそれを解消しようとする結果として、特定の何かに依存してしまう傾向があります。
短絡的な方法や批判では解決しない依存症……根本的な問題の理解を
端から見れば輝かしいキャリアを積んでいる人や、十分な生活をしていると思われる人でも、その人自身の心が満たされていないことは珍しいことではありません。個人の心の中を他人が伺い知ることはできませんし、憶測で問題点を推し量ることははばかられますが、今回のケースのように、輝かしい実績を持ち、世界的にも注目されている人物を「サポートする立場」には、精神的な葛藤も伴うものではないかと思います。もし水原氏が、ギャンブル自体や、その場で受ける待遇などから、優越感や高揚感を覚えていたならば、水原氏にとってはギャンブルの場こそが、「有名選手の通訳」としての自分ではなく、「自分自身の存在感」を得られるスペシャルな場所になっていた可能性は十分あり得るだろうと、筆者は思わずにはいられません。
一般的には仕事もプライベートも成功しているように見えたとしても、「普段とは違う自分の、特別な存在感」が、特定のものにはまるきっかけになってしまうのです。
他の依存症と同じく、ギャンブル依存症もまた、単に「ギャンブルを禁止すれば解決する」という問題ではありません。同様に「お金は十分にあったはずなのに、欲を出したのが悪い」と短絡的に責められるものでもありません。依存症は、脳科学的に見ても正しいサポートを必要とする病気の一つです。依存症を根本的に解決していくためには、まずはそれぞれの人が抱えている「心の問題」を紐解く必要があることを、ぜひ多くの人に理解してもらえればと思います。