言葉は丁寧だがケンカ腰に見えて
表面上は「私なんて」という謙虚さを貫き、メールもきちんとした言葉を使い、隙を見せないタイプのカズナさんと、マイコさんはコンビを組んで仕事をするのがつらくなっていった。「でもねえ、仕事ですから。苦手な相手だから外してくれというわけにもいかない。たぶん人としての相性が悪いんですよ。あるとき、部内の若手女子がうっかりミスをしたとき、私は先輩として先方に謝りに行かなければと思ったんです。彼女を連れて行ってくるけど、あなたはどうする? とカズナさんに聞いたら、『私に謝れって言うんですか』と。
いや、そういうつもりじゃないけどと言うしかなかった。私たちの仕事のアシスタントをしてくれていた若手女子のミスだから、私たちにも責任はあるわけで。でも自分がミスったわけではないのに、どうして謝らなければいけないんだという彼女のプライドの高さが見えました」
卑屈にまで見える彼女の謙虚さの正体
そこでマイコさんは気づいたのだ。そうか、カズナさんはプライドが高いんだと。ときに卑屈にまで見える謙虚さは、プライドの裏返しだったのか、と。「几帳面できちんとしている。どこからもツッコまれないような仕事をしている。それが彼女のプライドなんでしょう。確かにそうだけど、チームで仕事をしているから自分がミスらなくても誰かがミスることはある。そのときどういう態度をとるかが重要だと私は思うけど、彼女はあくまでチームより個人なんでしょう」
謙虚なふりをしながら、ときおり強烈なプライドを見せつけるカズナさんに、マイコさんはすっかり気持ちが疲れてしまった。そしてつい先日、彼女は上司に呼ばれた。
「今の部署、つらいかと聞かれました。どうやらカズナさんが何か進言したらしくて。上司のさらなる上役は私よりカズナさんを選びたい感じでしたね。私以外、彼女の邪悪さには気づいていないのかもしれません。闘うのも疲れたので、私は異動を希望しました。彼女と離れられるなら、そのほうが精神衛生上、いいので。しばらくたったら呼び戻すと上司は言ってくれたから、それを信じることにします」
きっと近いうち、自分の次なる犠牲者が出るはずだ。ずるいとまでは言い切れないが、小賢しく立ち回るカズナさんと毎日会わなくてすむと思うだけで、今のマイコさんは平常心を保てている。