Q. 「青い車は事故率が高い」って本当ですか?
「青い車は事故率が高い」って、本当でしょうか?
Q. 「青い車は少し珍しいので、次の車は青にしようかと思っていたのですが、家族から『青い車は事故を起こしやすいから危ない』と言われました。迷信のように思えますが、車の色によって事故率が変わることは、本当にあるのでしょうか?」
A: 錯覚によって起こりえますが、色だけが原因とも断言できません
「青い車は赤い車より事故が多い」という説は、1968年に出版された本に書かれた事故率の分析から生まれたもののようです。この分析では、2048件の交通事故を自動車の色別に分析したところ、赤またはあずき色の車の事故率が8%だったのに対して、青い車の事故率は25%だったと紹介されています。車の性能や品質ではなく色が事故率に関わるというのは信じがたいかもしれませんが、私たちが物をみるしくみを考えれば、あながちあり得ない話ではありません。わかりやすく解説します。
まず、「青い光は赤い光よりも屈折しやすい」という性質があります。みなさんも学校の理科の時間に「プリズム」というガラス製の正三角柱を使ったことはないでしょうか? 白色光を斜めから入射させると、虹のように異なった色の光に分かれるのが観察できます。
理科の授業で使用する「プリズム」。斜めから白色の光が射すと、虹のように異なった色の光に分かれます
この実験で分かることは、私たちが知覚している白色の可視光は、屈折率の異なる光(波)が混じってできているということです。そのうち、赤い光はもっとも波長が長くて屈折しにくく、青~紫の光はもっとも波長が短くて屈折しやすい性質があります。
私たちの目に光が入射すると、目の前面にあってレンズの役割を果たしている「水晶体」という部分を光が通過するときに、プリズムと似た光の屈折が起きます。このとき、赤い光はあまり屈折しないので目の網膜よりも奥の方にずれて届きやすく、これを認知した脳が水晶体をやや厚くすることで補正しようとするため、赤い光は「実際よりも近くにある」と感じやすくなります。青い光は屈折しやすく目の網膜より手前の方にずれて届きやすいので、水晶体を薄くすることで補正しようとすることで、「実際よりも遠くにある」と感じやすくなります。
このような違いによって、赤色は手前に近づいてくるように感じられ、青色は奥に遠のいていくように感じられると説明されています。色彩学の領域では、赤のような暖色系を「進出色」とか「膨張色」と呼び、青のような寒色系を「後退色」とか「収縮色」と呼びます。
試しに、下の図を見てください。Aは、青地に赤い丸、Bは赤地に青い丸が描かれています。どのように見えるでしょうか。
赤色と青色、どちらが手前に見える?
筆者自身は、左のAでは、中央の赤丸が手前にある感じがします。青い正方形の色紙の上に、赤い円形のコースターが乗っかっているような感じです。一方で右のBでは、中央にある青の部分が奥にある感じがします。青い地の上に、真ん中が丸くくり抜かれた赤い板がのっているように思えます。見え方には多少の個人差がありますので、そう見えない方もいらっしゃるかもしれませんが、この図は、「赤が進出色、青が後退色」ということが納得できる図だと思います。
そして、これと同じことが車の場合も同じことが起きるようです。
進出色である赤で塗られた車は自分に近づいてくるように見え、後退色である青で塗られた車は近くには見えにくいということです。赤の方が近づいてくるように見えるから危ないのではないかと思った方もいるでしょうが、逆です。実際の距離よりも手前に迫ってくるように感じられる分だけ、赤い車を見た時の方が素早くブレーキを踏むことができます。青い車は、実際の距離より遠くにあると感じるわけですから、危ないと思ってブレーキを踏んだ時点ですでに手遅れとなってしまう可能性が高いというわけです。
これは見え方という点では、非常に納得できる説明かと思います。しかし、本当に色だけが原因で事故率に差が出たのかどうかは、実は明らかになっていません。他にもいろいろな仮説が考えられます。たとえば、人間の性格と色の好みに何らかの関係があり、青色を好む人の方がスピードを出して運転する傾向がある……といった仮説です。
言うまでもなく、自動車運転による事故は車の色だけで決まるわけではありませんから、何より大切なのは「安全運転」を心がけること。自分は「赤い車を運転しているから安心」などと考えないようにしてくださいね。