Q. 横縞のボーダー柄はやせて見えますか? 太って見えますか?
「横縞のボーダーはやせて見える」って本当?
Q. 「横縞のボーダー柄の服が好きでよく着ています。横縞はやせて見えるのもいいと思っていたのですが、友人に『横縞は太って見えるからやめた方がいいよ』と言われました。実際はどっちでしょうか?」
A. 「太って見えるか、やせて見えるか」は、実は条件によって変わります
面白い質問ですので、少し専門的になりますが、錯視のしくみから説明してみたいと思います。いきなりですが、下の図を見てください。左右で縦横比が違って見えませんか?これは、「ヘルムホルツの正方形」として知られる錯視図形(Helmholtz illusion)の一つです。同じサイズの正方形の中に、左は縦縞、右は横縞を加えたものですが、右はやや縦長に見えませんか。
私たちが物を見るときには、目でとらえた情報を脳で「解釈」するため、実際とは違う見え方が生じることがあります。「錯視」です。横縞の方が縦長に見える理由については諸説ありますが、いずれも錯視によって説明されています。
一つには、図形をいくつかの分割線で区切った場合に、区切らなかった場合よりも全体に距離が長く見えるという錯視(「分割線錯視」または「オッペル・クント錯視」)が起こります。
もう一つには、 同じ長さの垂直線と水平線を比べると、垂直線の方が長く見えるという「垂直水平錯視」が起こります。私たちの眼球は、左右の横方向にはよく動かせますが、上下の縦方向には動かしにくくできています。そのため、上下方向の距離を読み取るのが大変で、その分長く感じてしまう性質があるのです。このため、縦と横が本当は同じ長さでも、縦の方が長いと感じてしまうのです。上のヘルムホルツ錯視で、正方形の中に描かれた縦縞と横縞の黒棒1本ずつだけを取り出して並べてみる(下の図)と、こうなります。
左右の黒棒は同じものなのに、右の方が太く見えませんか。
左右の黒棒はまったく同じものですが、右の方が太く見えますよね。これが「垂直水平錯視」の効果です。正方形に横縞が書き加えられると、「分割線錯視」と「垂直水平錯視」の効果が相まって、全体として縦長に見えるというわけです。
では、「縦縞より横縞のボーダー柄の方がやせて見えるのか?」という質問の回答に入ります。
質問者の方は、横縞のボーダー柄がお好きとのことですが、私が見かける限りでは、確かにボーダー柄というと横縞のものを着ている方の方が多いように思います。お店で売られている商品も、圧倒的に横縞が多いのではないでしょうか。
上で紹介したヘルムホルツ錯視の原理によれば、横縞がある正方形の方が縦長に見えるので、やっぱりスリムに見えると考えてもよさそうですね。ところがそうでもないのです。
「縦縞と横縞の洋服のどちらを着た方が細く見えるか」という調査は複数あるのですが、ほとんどのケースで予想とは逆の結果が報告されています。ある調査では約7割の人が「横縞の方が太って見える」と回答しました。なぜでしょうか。
この食い違いの原因は、実はまだ解明されていないのですが、いくつかの可能性が考えられます。
上に挙げた平面的な図形と違って、服の場合は立体的な要素が加わります。つまり、胸や腹などの凹凸によって縞は曲線になるので、純粋な縦縞と横縞の比較が困難になるのです。
また、服は、ヘルムホルツ錯視のような「正方形」ではなく、どちらかというと縦長ですよね。そこで、縦長の長方形に同じ太さの縦縞と横縞を加えてみると、こうなります。
ヘルムホルツの正方形とは違って、どう判断すればいいのか迷うと思います。
全体が正方形の場合は、一つの図形の中で縦と横のどちらが長いかという比較から「横縞だと縦長に見える」という判断をしますが、明らかに全体が縦長の長方形の場合は、一つの図形中の縦横の比較ではなく、左と右の図の違いに注目することになります。しかも、左の縦縞と右の横縞は、実は同じものではありません。幅は同じですが、左の縦縞は長く、右の横縞は短いです。何をどう比較したらいいのかわからない状況で一番目立つのが、縞の形の違いなので、「どちらが細く見えるか」とたずねられると、長くて細く見える縦縞の線に引きずられて「左の方が細く感じる」と答えてしまう人が多いのではないでしょうか。
結局のところ、「服の縞模様によって縦横比の見え方が変わることはあるものの、縦縞と横縞のどちらがスリムに見えるかは条件次第で、何とも言えない」というのが回答になります。体型が気になるから服のデザインでカバーしたい……という人も多いかもしれませんが、やはり錯視の見え方のあいまいさを考えると、実際の体型自体をがんばって整えるのが一番ということなのかもしれません。