Q. 「ヒルロイド」と「ヒルドイド」の違いは何ですか?
「ヒルドイド」は病院から処方されているけど、SNSで見かける「ヒルロイド」って?
Q. 「皮膚科で『ヒルドイド』を処方してもらっています。最近、SNSなどを見ていると『ヒルロイド』という薬が紹介されていて気になりました。どちらも保湿効果があり、似た薬のようですが、どんな違いがあるのでしょうか? 保湿効果が高いのはどっちですか?」
A. 「ヒルロイド」という薬は存在しません。「ヒルドイド」の誤認です
「ヒルドイド」は、吸水・保湿性を有したヘパリン類似物質を含有した血行促進・皮膚保湿剤です。そして、質問者の方が言われる通り、たしかにSNSなどで検索すると「ヒルロイド」という薬の解説などが見受けられます。しかし実際には、そのような薬は存在しません。皮膚科でよく用いられる「ステロイド」と「ヒルドイド」の名前を混同して「ヒルロイド」と誤認した名前が、広がってしまったものと思われます。そもそも「ヒルドイド」を「ヒルロイド」と間違えても、気づかない人が多いのはなぜでしょうか? それは薬の名前を何となく「丸暗記」しているからでしょう。
薬の名前は専門的に見えてカタカナだらけなので、意味がわからないと思って丸暗記しようとする方が多いのかもしれませんが、必ず名付け親がいます。あなたのご両親が「こんな子供に育ってほしい」といった願いを込めてあなたに名前をつけてくれたように、一つ一つの薬も、名付け親(多くの場合、製薬メーカーの担当者)がそれなりの理由をもって名付けているはずです。名前の意味を軽くでも知っておけば、言い間違えや忘れてしまうこともなくなります。
「ヒルドイド」という名前にはどんな意味があるのか、薬の詳しい説明書に相当する『インタビューフォーム』を確認すると、以下のように語源が説明されています。
意外かもしれませんが、名前の前半の「ヒルド~」は、動物の「ヒル(蛭)」に由来し、「ヒルドイド」は「ヒルのようなもの」という意味なのです。「ヒル」を知らないという方もいらっしゃるかもしれませんが、筆者が子供のころは、田舎の川で遊んでいるときなど、何かが足に噛みついたような痛みを感じ、確認すると小さな黒いナメクジのような生き物が数匹くっついていることがありました。慌てて引っ張って取り払ったところ、噛まれた部分から血がだらだらと出てしまい、なかなか止まらなかった経験が何度かあります。ラテン語の Hirudo(蛭属)と~oid(~の様なもの)を組み合わせたものである。
通常、私たちが出血したときには、血液凝固のしくみが働いて速やかに血が固まり止血されるようになっています。大型動物の血を吸って生きるヒルが、皮膚に噛みついて血を吸い続けるためには、血が固まらないようにする必要があるため、ヒルは唾液腺から「ヒルジン(hirudin)」という物質を分泌しています。ヒルジンは、血液凝固に関わるトロンビンという酵素の働きを阻害することによって、血液凝固を阻止する作用があります。日本では認められていませんが、海外ではこのヒルジンを血液凝固阻止薬として用いているところもあります。
「ヒルドイド」は、「ヘパリン類似物質」という薬を主成分として含み、もともとは血液凝固を阻止して血行促進をもたらす目的で開発されました。そのため、血液凝固を阻止できる「ヒル(学名:Hirudo)」にあやかった名前がつけられたというわけです。名前の由来を一度理解してしまえば、もう間違えることはありませんね。
■関連記事