ライフキャリア

東京から石垣島、そして神戸へ“父子移住”。リモート時代が可能にする新たな親子暮らしのスタイルとは

リモートワークの普及により、仕事だけでなく子育ての環境も自由に選べるようになった。今回は44歳で会社員を早期退職後、子どものライフステージに合わせて東京から石垣島、そして神戸に移住した親子の事例からリモートワーク時代の新しい教育移住のスタイルを紹介する。

小寺 良二

執筆者:小寺 良二

ライフキャリアガイド

沖縄県石垣島での生活

1カ所目の移住先・沖縄県石垣島での父子生活の様子

「60歳までに地元と呼べる場所を5つ作りたいと思ったんです」
 
そう語るのは2020年に会社員を早期退職し、現在中学1年生の長男と兵庫県神戸市に親子で2人暮らしをしながらフリーランスとしてリモートワークをしている酒匂紀史(さこうのりひと)さんだ。
 
出生地であり大学時代までを過ごした愛知県、そして会社員時代から住んでいる東京都以外にも、大切な仲間がいたり、ふとした時に帰れたりする場所があることは人生100年時代を豊かに生きる上で重要なのではないか?そしてそれらを創っていくプロセスを息子と一緒に体験することは教育的にも価値があるのではないか?と考えたようだ。
 
会社員を退職した後に、東京都から当時小学5年生の長男と共に沖縄県の石垣島に「父子移住」し、昨年長男の中学進学と同時に神戸市に再移住した酒匂さんの、子育て論を含むライフキャリアの考え方について聞いた。
 

子どもの「個性」を育む上で適していた石垣島移住

「長男は当時東京の公立小に通っていて、サッカーも楽しく取り組んでいたので特に環境への不満はありませんでした。ただ彼は野生児みたいなタイプなので正直都会よりも自然の中で暮らした方がもっとのびのびするだろうとは思っていました」
 
会社員時代から仕事で行き来があった沖縄県石垣島。地元少年サッカークラブのコーチとの出会いもあり、長男にとっても良い環境なのではと薄々感じていた。当時、私立の中学校に通っていた長女の転校は難しかったので、「母と長女」は東京、「父と長男」は石垣島に移住するという決断をすることになった。
 
父と子での二人三脚の生活は決して楽ではなかったという。酒匂さん自身はリモートワークで仕事をしながら、長男のサッカーの送り迎えから毎日の食事作りまでを1人でこなす。会社員時代は仕事で忙しくてなかなかとれなかった息子との時間を取り戻すかのように、仕事と子育ての両立に取り組んだ。改めて家事や育児の大変さを痛感し、東京での生活でそれらを全て担ってくれていた妻への感謝の気持ちも湧き出てきた。
 
石垣島の、全校生徒100人に満たない小規模校に通う長男の成長を見守りながら子育てについても感じたことがあるという。
 
「ありきたりかもしれませんが、教育において一番大事なことは“個性を育むこと”なんじゃないかと改めて感じました。東京の小学校ではサッカーをやっている子はたくさんいて、そのこと自体が個性にはならなかったのですが、石垣島の学校では“サッカー小僧といえば酒匂”になっていました」
 
石垣島という自然にあふれる環境で大好きなサッカーにのびのびと打ち込む長男の姿を見ながら、少しずつではあるが環境を変えたことの成果を実感したようだ。
 

「多様な選択肢」を求めて決断した神戸への再移住

そんな酒匂さん親子だが、長男が小学校を卒業すると同時に神戸への再移住を決断することになる。
 
石垣島には中学生が通えるサッカーのクラブチームがない。中学の部活でサッカー部はあるが、高校で憧れの強豪校に入るには石垣島からはハードルが高い。調べた末に、神戸にある評判の良いクラブチームを見つけて入団テストを受け、無事に合格することができた。
 
長男が中学校時代を過ごす上で「神戸」という環境を選んだ理由を酒匂さんはこう話す。
 
「やはり高校など将来の選択肢の可能性を広げるという意味では、都会の環境はメリットがある。ただ今の彼には東京ほどの情報量や選択肢は必要ない。その点、神戸はベストだと感じました」
 
子育ての環境において「田舎」と「都会」にはそれぞれの特徴やメリット・デメリットがある。しかしどんな環境が適しているかは、子どもの性格やライフステージによって異なるだろう。
 
その時々のニーズに合わせてそれらに合う環境を選んでいくことが理想的で、酒匂さんはまさにそのようにして2度の移住を選択している。今までは現実的ではなかったそんな子育てや教育が可能になったのはなぜなのだろうか。
 

場所の自由をフル活用する子育てのあり方

「リモートワークが当たり前の時代になったことが大きい」と酒匂さんは言う。実際に石垣島や神戸に移住してからも、リモートワークを活用して東京や大阪、沖縄の企業からの仕事を自宅で行っている。
 
「リモートワークによって人は”働く場所の自由”を得られたと思います。ただその自由を”働く場所”だけにしてしまうのはもったいない。もしそれをフル活用するとすれば”子育ての場所”もその時々で選んでもいいと思うのです」
 
酒匂さんは自分たちのことを「ヤドカリ親子」と呼ぶ。その時々の時期(ライフステージ)や自分たちの体のサイズ(ニーズ)にあったヤド(住む場所)を選んでいくという生き方だ。
 
父と子の二人三脚生活は石垣島のときと変わらないが、神戸に移住してから新たに始めたことがある。Instagramに「パパの3年食堂@sako_saiko)」というアカウントを作り、日々長男のために作った料理の写真を投稿することだ。
 
「石垣島のときから食事は作っていましたが、どちらかと言うと作業になっていました。どうせやるなら楽しくやろう!ということで、作るだけじゃなくて、栄養や盛り付けもこだわって、成長期の長男にも食べることを楽しんでもらいたいと思って
 
日々の食事作り自体を1つのプロジェクトとして楽しんでしまう姿勢には感銘を受ける。移住当初は父と息子の2人生活を心配していた東京に住む妻も、そんな2人の様子を見て頼もしく思っているようだ。
 
酒匂さんのライフキャリアの選び方には強い主体性を感じる。それはリモートワークによって得られるメリットを仕事面だけでなく子育てにも最大限応用しようという姿勢だ。
 
自分たちがその時々で求めているものを冷静に自己理解し、そのニーズに合う環境を探し出し、移り住むという思い切りの良さがある。その実現には当然本人の努力と、同時に家族の理解と協力が必要だ。
 
移住に限らず新たなチャレンジを家族とする場合、それ自体が「楽しそうかどうか」は特に子どもにとっては大きい。もしかすると「パパの3年食堂」のようにその環境や困難すらも、楽しいものにしよう!とする親の背中は子どもたちの心をも動かしているかもしれない。

>次ページ:息子のために作った料理を記録するInstagram「パパの3年食堂」を見る
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