新薬による治療にかかる費用の目安は?
600万人を超える国内の認知症高齢者の半数が、アルツハイマー病を原因とする「アルツハイマー型認知症」と考えられています。アルツハイマー型認知症に対する治療薬として使用可能な薬は、これまで4種類しかなく、いずれも一時的に症状を軽減するだけの「対症療法薬」でした。これに対して、2023年9月25日に新たに製造販売が承認された「レカネマブ」は、アルツハイマー病の原因物質と考えられている「アミロイドβ」というタンパク質に特異的に結合して、脳内アミロイドβ量を減らすことのできる薬なので、病気の原因を攻撃できる「抗体薬」です。病気の初期段階で投与を開始すれば進行を抑制できると期待されています。この新薬の国内販売が、ついに2023年12月20日から始まりました。
レカネマブ投与の条件……国内で対象となるのは3万人程度か
ただ、認知症の方すべてがこの新薬の投与を受けられるわけではありません。軽度の認知障害であること、脳内に一定のアミロイドβ蓄積が確認されること、脳浮腫や脳出血がないこと、投与後に起こる可能性のある脳浮腫や脳出血への対処が可能な医療機関で実施することなどの条件を考慮すると、多くても3万人くらいと想定されています。レカネマブの薬価は11万超。年間の自己負担額の目安は?
もう一点、多くの方が気になるのは医療費負担かと思います。発売に先立ち、レカネマブに対しては保険適用することが決定し、その薬価(薬の公定価格)を厚生労働大臣の諮問機関である中央社会保険医療協議会が承認しました。その値段は、500mgで11万4443円です。
レカネマブの用量・用法は「通常、10mg/kg(※体重1kgあたり10mgという意味)を、2週間に1回、約1時間かけて点滴静注する。」と定められていますので、実際の値段は患者さんの体重によって変わります。体重が50kgの方であれば、1回に500mg、11万4443円かかります。2週間おきに通院しながら一年間投与を続けると、年間の総額はおよそ298万円となります。ただし医療保険が適用されますので、患者の自己負担額は1~3割で、さらに高額療養費制度がありますので、70歳以上の一般所得層の場合、外来による負担額の上限は年間で14万4000円と見積もられます。
患者の自己負担は、想像したより少なくて済むと思った方が多いでしょうが、当然のことながら自己負担分以外は、加入者が支払う保険料や公費から支出されるわけですから、医療保険制度そのものを圧迫するようなことがないように注意する必要があると思われます。
レカネマブを使った治療を受ける場合、薬剤費以外の費用も必要
また、レカネマブを使った治療を始めると、かかるのは薬剤費だけではなくなります。各種検査などの費用も必要です。レカネマブを使用する前には、PETという脳画像検査で脳のアミロイドβ分布を確認したり、治療開始後に、「アミロイド関連画像異常(ARIA)」と呼ばれる脳浮腫や脳出血が起きていないかを確認するための脳画像検査を定期的に行う必要があります。また病状によっては入院が必要になることもあるでしょう。
これらのことを加味したうえで、新薬を使った治療を選ぶかどうかを決めることになるという流れも知っておきましょう。