狼狽する夫は、あわててグラスを……
娘の言葉に、夫は狼狽し、持っていた水の入ったグラスを落とした。夫がそこまであわてふためくのを見たことがなかったキミコさんは、夫を疑いの目で見た。「夫はあわてて立ち上がって、風呂入ってくると行ってしまった。娘は『浮気でもしてんじゃないの、おかあさん、ちゃんと調べたほうがいいよ』と言ったんです。まさかねと笑って見せましたが、私も娘と同じように思っていました」
脱衣場で夫が脱いだ服や下着をこっそり見てみると、夫のジーンズのポケットから小さなピアスが出てきた。キミコさんは一瞬固まったが、次の瞬間、笑ってしまったという。
「こんなことをして自分をアピールするような姑息な女と付き合っているのかと思ったら、夫にがっかりしました。まあ、でもこういうところがかわいいのかもねと納得もしたり。夫にとって私はたぶん“怖い妻”だから、甘えてくれる女性がかわいいんだろうなと。だけどそのまま見過ごすタイプじゃないんですよね、私(笑)」
怖い妻の意外な本音
風呂から出てきた夫にピアスを突きつけ、「説明してもらおうか」とすごんで見せた。夫はかわいそうなほど縮み上がっていた。「挨拶回りというのは何だったんでしょうかと言うと、夫はおどおどして目がキョロキョロ。正直に言えば楽になるよと言って吐かせました。夫は連日、不倫相手のところに行っていたようです。そして大晦日は『2年越しで一緒にいよう』ということになり、帰りが午前様になった、と。
知り合って3カ月くらいというから、まあ盛り上がっている時期だったんでしょうね。『続けるの、どうするの。娘も不信感をもっていたよ』と聞くと、『もともと続ける気なんてないです』としょんぼり。相手の女性は飲食店に勤務しているので、30日までは昼間の逢瀬、31日は相手も休みだったのでゆっくり過ごしたようですね」
別れるなら、今すぐ連絡してと夫の携帯を渡した。「わあ、ヨウジさん、電話うれしい」という女性の声が聞こえた瞬間、キミコさんは夫から携帯をひったくった。
「すみません、ヨウジの妻です。あのね、夫があなたとは別れると言っているから、あなたもそのつもりでいてください。このまま別れてくれれば慰謝料請求したりしないからとだけ言って、夫に携帯を渡しました。夫は『ごめん、そういうことだから』って。そのまま相手の連絡先を削除させました」
このままなら、私はすべて水に流すよと言うと、夫はごめんと頭を下げた。その後、夫に不審な言動は見られなくなった。
「まあでも、一度やったらまたやるとは思っていますけど。私は終始、冷静なつもりだったけど、怖かったかもしれませんね。ただ、あのときのことを思い出すと、1年たっても胃がキリキリする。私だって怖いだけじゃない。傷ついたんだなあと今になると思うんです。これで水に流すと言った手前、今さら話題にも出せないけど、やっと私も傷ついたと認めることはできるようになりました」
強気に出ても傷つく。それがサレた側の心理なのだ。だからこそキミコさんは言う。年始はもちろん、年末の多忙な時期こそ夫の言動をチェックしよう、と。