孫育てを機に近距離別居を選択した実母
「うちはずっと共働きなんですが、年子で子どもが生まれたころは母にすっかり頼っていました」そういうのはアヤカさん(45歳)だ。現在、14歳と13歳の子がおり、同い年の夫と4人で暮らしている。
「当時、すでに母は父を亡くして、私たちの自宅から1時間半ほどかかる実家でひとりで暮らしていました。手伝いに行くよと言ってくれたのですが、自宅で寝泊まりしてもらうとお互いに気を遣うので、母には目の前のワンルームマンションを借りて、そこに住んでもらいました」
そのうち母自身が、自宅を売ってこっちに引っ越してくると決断した。家が狭いから一緒には住めないけど、それでもいいのかと念を押すと「それでもいい」と言った。それなりにお金も持っているようだし、好きなように暮らしてもらえばいいとアヤカさんは考えていた。母は「孫の世話が何より楽しい」と、ずっと力になってくれたので、アヤカさんも家族旅行には母を連れていったし、ときには母をおいしいレストランにつれていったりもした。
孫は成長、80歳の実母は衰えて
現在、母は80歳になる。コロナ禍で家から出なくなり、その間にかなり足腰が衰えた。子どもたちは大きくなって、部活に塾に友だちとの交流にと忙しい。夫もアヤカさんも、今は仕事で中核を担っているから、在宅ワークと出勤を繰り返しながらひたすら仕事をしている状態だ。「それでもある程度、準備しておけば子どもたちが夕飯を作ってくれるようにもなりました。子どもたちのためにも自分で作らせたい。それに私も夫も残業はなるべくしないようにしているので、家族で食事はとる時間には帰れる」
ただ、母が毎日ひとりで自分の部屋にいるので、最近は夕飯だけは一緒にとるようになった。洗濯や掃除も気になるので2日に1回はアヤカさんが母の部屋に行って家事をしている。
「夕飯をとったあと、母を送りがてら部屋にいって家事をする。ただ、私も自宅が気になるし、そうそう母と一緒には過ごせないんです。夜、仕事をしなければいけないことも多いし。ただ、そういうときに限って母は昔話を始める。これが長いし、何度も聞いた話だし。わかってるんですよ、はいはいと聴くのがいちばんいいことは。でもそうもできないのが実情。母には外に出るように言っているんだけど、友だちもいないし、どこへ行けばいいかわからない、と」
こっちに来なければよかったと母はときどき涙声になる。かわいそうだと思うものの、「来ると決めたのは自分でしょ」と思わず言ってしまう。そして冷たくしたことを後悔するのだという。
「せめてデイサービスにでも行ってもらおうと介護認定を申し込んだところです。母が老いて、生きる気力をなくしているのを見るのはつらい。だけど、私には私や子どもたちの生活がある」
要介護の前の段階、つまり体に特に異状はないが、老いて気力が衰えた親をどうしたらいいか。そういう話は介護問題でもなかなか語られることがない。
>近所にいるとはいえ、一人暮らしは限界間近