募集要項に「当社の現役役員・社員の子女・兄弟姉妹でないこと」の記載がある伊藤忠商事(画像:公式Webサイトより)
しかし、トヨタやユニクロ、星野リゾートなど同族経営のメリットをうまく機能させて成功している企業もあるし、身近な話でいえば、地元で長年愛されてきた和食屋で父から息子に代替わりになり、おいしい店の味が継承されていくことは、誰しも歓迎する出来事に違いない。
このように、功罪の両面がある同族経営・世襲だが、企業の新卒採用や中途採用の現場では、募集要項にはっきりと「当社の役員・社員の子女、兄弟姉妹でない方」を採用したいことを明記している会社もある。これにはどのような意味があるだろうか。
“コネ採用”自体に何か問題があるわけではない
役員・社員の子女、兄弟姉妹、もしくは役員・社員からの紹介で採用に至る“コネ採用”などは、一部の会社では普通に見られる光景だ。現在の経営者の親族が若くして部長や取締役をし、次期社長になるための修業をしているような会社もある。それ自体に何か問題があるわけではないだろう。仮に紹介を受けても採用で有利になるかは分からないし、むしろ紹介をきっかけに検討する場合、普通のケースよりも厳しめに評価しているケースもあるかもしれない。
大学生の就職人気ランキングで上位に入る人気企業の中には、新卒採用の募集要項に、「当社の役員・社員の子女、兄弟姉妹でないこと」との記載がある企業があるが、この場合でも「コネ採用はありません」とは、はっきり書いてはいない。子女や兄弟姉妹でなければ、役員・社員の紹介で入社する人はいるのかもしれない。
営業の現場では、新しい会社に初めてコンタクトをとる際に、その会社に知り合いがいるかその会社の取引先を知っていれば、そうしたところから紹介を受けて相手にファーストコンタクトを取ることはよくあることだ。紹介を受けたことで、初めて会う相手の警戒を少しでも解くことができれば、その紹介は効果があったことになる。
採用でも同様に役員・社員からの紹介に積極的な会社というのは、社員が信用できると思う相手を紹介してくれるという前提に立っているからに他ならない。採用に至った人物を紹介した場合、会社が社員に対してインセンティブを支払う会社も多い。
「役員・社員の子女、兄弟姉妹を採用しない」との明記、どう受け取る?
では、役員・社員の子女、兄弟姉妹を採用しないと明記している会社は、なぜそのような方針にしているのか。1つには、不正への意識が高いことが考えられるだろう。紹介者との個人的な関係(親族だけでなく、元部下や元取引先というように)が強い人が社内にいるということは、そこに特別な関係のある集団が生まれる可能性がある。その集団がもたらすマイナスな効果、例えば仲間を優遇するとか、不正を隠すようなことが起きることを懸念しているのだ。社員間の特別な関係の一例として、同じ部署で働く社員2人が結婚した場合、夫婦のどちらかを別の部署に異動にする会社もある。
このような“特別な関係”を認めないことを明記している企業からは、上記のようなガバナンス意識の高さの他にも、実力主義で公正に評価することの意思表明も感じ取れるだろう。
一方で、「役員・社員の子女、兄弟姉妹を採用しない」と明記がない会社は良くないということではまったくない。実際、明記がない会社で、自分の子どもを自分と同じ会社、もしくはグループ会社に就職させる親もいる。自分の働く会社を子どもに紹介できるというのはそれだけ良い会社だということだ。知らない会社に就職して苦労するよりも、自分が推薦できる会社で子どもが働けば親も安心できるということもあろう。
このように、採用時に社員の紹介を奨励する場合とそれを禁じている会社があるのは興味深い。似た話として、出戻り社員(一度会社を辞めた社員が再度戻って入社すること)を受け入れている会社とそうでない会社がある。どちらにしても、このような社員採用の方針の違いからは、何らかの社風や組織の評価制度などを透けて見ることもできるということだ。
あなたが会社を選ぶとき、採用方針にどのような特徴を見せているか、というのも1つの着眼点としてみると、自分にとっての良い会社か、社風が合う会社か、少し見えてくるかもしれない。
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