法改正によって、大麻取締法に"使用罪"が新設? その情報、間違いかもしれません
2023年12月6日に、現在の大麻取締法を改正する法案が国会(参議院本会議)で可決・成立し、大麻取締法は「大麻草の栽培の規制に関する法律」(昭和23年7月10日法律第124号)に変わることになり、2024年12月12日から実際に施行されました。
この改正の目的は、次のとおりです。
1)大麻草から製造された医薬品の施用等を可能とするための規定の整備
2)大麻等の施用罪の適用等に係る規定の整備
3)大麻草の栽培に関する規制の見直しに係る規定の整備
要するに「大麻を医療に応用できる道をひらくとともに不正な使用を厳しく禁じる」こととしたのです。
このうち2)に関しては、これまでの大麻取締法の中では、大麻の「使用のみ」に対して禁止の規定及び罰則がなかったため、
- 大麻取締法に「使用罪」が「新設」された
- すでに禁止されている「所持」や「譲渡」に加え、「使用」を禁止することが盛り込まれた
今回の法改正で、大麻の使用に関する規定がどう変わったのかを正しく解説します。
大麻取締法から「使用」や「施用」に関する規定がすべて削除
改めてこれまでの「大麻取締法」(昭和23年7月10日法律第124号)を読んでみると、大麻の「使用」に関する規定や罰則がまったくなかったわけではありません。実際に次のような条文がありました。ちなみに、第三条第一項又は第二項は、「無許可の所持・栽培・譲り受け・譲り渡し」を禁止しているので、この規定は「大麻を栽培または譲り受けて、所持し、使用した者は、五年以下の懲役に処する」という意味になります。ただこの規定だと、たとえば尿検査の結果を受けて大麻使用の疑いが高まったとしても、譲渡や所持の証拠が伴っていなければこの罰則が適用されないとも解釈できます。そこで、今回の法改正で「使用のみ」に対する罰則が新たに加わった、というのが、一部のメディアが伝えた内容ですが、実際のところ新しい法律では、この使用に関する規定が無くなっています。つまり、大麻取締法に使用罪が「新設」されたのではなく、「削除」されたのです。第二十四条の三 次の各号の一に該当する者は、五年以下の懲役に処する。
一 第三条第一項又は第二項の規定に違反して、大麻を使用した者
あともう一つ、これまでの大麻取締法には、「使用」に関係する次のような条文がありました。
ここでいう「使用」は、研究を目的としたもので、許可されれば使用を認めるという内容です。なお、この条文は新しい法律では、次のように改められました。第二条 (中略)
3 この法律で「大麻研究者」とは、都道府県知事の免許を受けて、大麻を研究する目的で大麻草を栽培し、又は大麻を使用する者をいう。
つまり、やはり「使用」という言葉が無くなっています。第二条
5 この法律で「大麻草研究栽培者」とは、第十三条第一項の規定により厚生労働大臣の許可を受けて、大麻草を研究する目的で、大麻草を栽培する者をいう。
さらに、これまでの大麻取締法には、「使用」とは異なる、「施用(しよう:※読みは同じになりますが漢字が違います)」に関して次のような条文がありました。
この「施用」は、主に「疾病の治療の目的で用いること」を指しています。そして、この条文すべてが、新しい法律では無くなりました。第四条 何人も次に掲げる行為をしてはならない。
(中略)
二 大麻から製造された医薬品を施用し、又は施用のため交付すること。
三 大麻から製造された医薬品の施用を受けること。
つまり、大麻取締法に、新たな「使用罪」もしくは「施用罪」が加えられたという事実はないのです。
大麻が「麻薬」というカテゴリーに変更されただけ
今回の法改正で、大麻の不正な「使用」や「施用」を禁止するために行われたのは、実は、大麻を「麻薬」に指定しただけのことです。具体的には、「麻薬及び向精神薬取締法」(昭和28年法律第14号)もあわせて改正され、「麻薬」の定義が「別表第一に掲げる物及び大麻」となったのです。もともと「麻薬」に関しては、正式に認可された医薬品を扱うため、以下が認められていました。
- 麻薬研究者が、研究のため施用する
- 麻薬施用者(医師、歯科医師又は獣医師で免許を得た者)から施用のため麻薬処方箋の交付を受けた者が、その麻薬を施用する
- 麻薬小売業者から麻薬処方箋により調剤された麻薬を譲り受けた者が、その麻薬を施用する
また、その一方で、これ以外の施用やみだりに使用した場合の罰則が次のように定められていました。
今回の法改正で、大麻が「麻薬」に指定されることで、「麻薬」に関する規定と罰則が大麻に対しても適用されることになったのです。第六十六条の二 第二十七条第一項又は第三項から第五項までの規定に違反した者は、七年以下の懲役に処する。
2 営利の目的で前項の違反行為をした者は、一年以上十年以下の懲役に処し、又は情状により一年以上十年以下の懲役及び三百万円以下の罰金に処する。
3 前二項の未遂罪は、罰する。