大麻草に由来する成分「CBD」とは?
CBDとは大麻草に由来する「カンナビジオール」という化合物の略称です。CBDは、よく「大麻草に含まれる成分」と説明されることが多いのですが、実はそれは正しくありません。CBDとは何か、法律的な合法性・違法性の考え方、考えられる効果と危険性について、わかりやすく解説します。
<目次>
- CBDとは何か? 大麻草に由来する化合物
- CBDを有効成分とする医薬品の効果・日本国内での現状
- CBD製品は日本でも合法か・違法か THCが混入していなければ規制対象外
- CBD製品の効果は? リラックス効果・ストレス軽減効果などは不明
- CBD製品の危険性は? 体への悪影響・精神的な影響で考えられるリスク
CBDとは何か? 大麻草に由来する化合物
CBDは、大麻草の成分分析をしているときに見つかった物質なので、「大麻草に含まれる成分」と説明されることが多いのですが、これは誤りです。生きている大麻草や採取したばかりの新鮮な大麻草の中には、CBDはほとんど含まれていません。大麻草の中に存在するのは、CBDにカルボキシ基(-COOH)がついた「カンナビジオール酸(CBDA)」という化合物です。成分分析をするためには、時間をかけて試料に様々な処理を施したり分離したりする工程が必要ですが、その間にCBDAが化学変化を起こし、二酸化炭素が取れたものがCBDになります(下図参照)。
したがって、「CBDは自然の大麻草が作り出す」ものではなく、「CBDは大麻草を原料にして作られる」というのが正しいです。CBDは、あくまで人間の手が加えられることによって作られる、ある意味「半合成薬物」であることを知っておきましょう。
もう一点、CBDについて、あまり知られていないものの重要な性質があります。それは水に溶けにくいということです。
自然の植物が産生する多くの物質は、窒素原子を含んでいて「アルカロイド」と総称されます。麻薬であるモルヒネやコカインなどもアルカロイドで、水に溶けやすい性質をもっています。それに対して、上の図に示された化学構造を見ると分かりますが、CBDAもCBDも、分子中にまったく窒素原子(N)を含んでおらず、水に溶けません。しかも、CBDAからカルボキシ基がとれたCBDは、常温では固体の、ほとんど石炭のような物質です。現在、「CBDグミ」や「CBDオイル」などの製品が見られますが、グミなどの食品に練りこまれていたり、オイルとして販売されたりしているのは、CBDがまったく水に溶けないからです。
CBDを有効成分とする医薬品の効果・日本国内での現状
CBDの効果については、現在研究が進められていますが、海外ではCBDを有効成分とする医薬品も開発されています。2015年7月に、アメリカで、CBDを有効成分とする「エピディオレックス」という医薬品が、乳幼児期に発症する難治性てんかんである「レノックス・ガストー症候群」と「ドラベ症候群」に対する治療薬として認められました。
2022年4月には、日本でも治験が開始されたと伝えられています。医薬品としてのCBDの応用が今後広がる可能性が期待されています。
CBD製品は日本でも合法か・違法か THCが混入していなければ規制対象外
近年は日本国内でも、CBD入りのサプリメントやグミなどの食品、オイルなどの商品が売られるようになりました。CBDそのものは薬物規制の対象とはなっておらず、大麻草の種子や成熟した茎だけから製造した商品であれば大麻取締法で定義する「大麻」には該当しません。大麻の取り扱いを定めた法律としては、昭和23年(1948年)に制定された「大麻取締法」があり、その第一条では、
と定義しています。この法律で「大麻」とは、大麻草(カンナビス・サティバ・エル)及びその製品をいう。ただし、大麻草の成熟した茎及びその製品(樹脂を除く。)並びに大麻草の種子及びその製品を除く。
つまり、大麻草の部位に基づいて規制が行われており、成熟した茎や種子及びその製品は「大麻」には該当しないのです。大麻取締法が制定された当時、大麻草が繊維等の製品や、七味唐辛子にも入っている「麻の実」などの食品としてすでに活用されていたため、対象から除外する必要性があったのです。またその後の研究から、幻覚を生じる成分、THC(テトラヒドロカンナビノール)は、葉や花穂に多く含まれており、成熟した茎や種子にごく微量しか含まれていないことも判明しました。ですから、大麻草の成熟した茎や種子を原料としてCBD関連の商品を製造・販売することは違法ではありません。ただし、もし一部でも葉や花穂が製造過程で混じっていたなら違法ですし、混入したTHCを摂取してしまう危険があるので注意が必要です。
参考までに、2023年12月6日に大麻取締法を改正する法案が国会で成立したことを受けて、改正後の法律では「大麻草(その種子及び成熟した茎を除く。)及びその製品(大麻草としての形状を有しないものを除く。)」を「大麻」として扱うことになります。大麻草を加工して得られる化合物は「大麻草としての形状を有しないもの」に相当しますので、CBDも含む、大麻草由来の化学物質(カンナビノイド)すべてが「大麻」には該当しないことになります。その一方で、大麻草由来のTHCは、「麻薬及び向精神薬取締法」という法律で取り扱われる「麻薬」として規制されるよう変更されます。
つまり、加工に関する許可や届け出は必要ですが、大麻草のどの部分を原料として作られたものでも、THCを除去するなどして純粋にCBDだけを含む製品であれば使用可能になるということです。これまでよりはCBD関連の医薬品や食品を開発しやすくなると思われます。一方で、THCが混入した製品を無断で使用した場合には、「麻薬及び向精神薬取締法」違反となり、これまでよりも重い処罰が科せられることになります。
CBD製品の効果は? リラックス効果・ストレス軽減効果などは不明
CBD製品には、以下のような効果をうたって販売されているものが多いようです。- リラックス効果
- ストレス解消効果
- 疲労回復効果
- 不眠改善効果
「リラックス効果」などの精神的な効果がうたわれることが多いですが、使用者がそのような実感を得たとしても、CBDが効果を発揮するメカニズムは現段階では不明なのです。もし本当に明らかなリラックス効果などが得られるのであれば、それはCBDが脳の何らかの神経活動を抑制し、静穏作用を示していることを意味します。その場合は、「CBDには精神作用がないから安全」という説明に矛盾が生じることになります。
なかには、がんや糖尿病の他、認知症や自閉症、うつ病、統合失調症などにも効果があるような説明がされている製品も見受けられますが、海外で医薬品として使用されているごく一部を除き、一般的なCBD製品はあくまで食品や雑貨扱いのものです。薬のような効果があるとうたうのは、そもそも法律違反ですので、それらの製品には注意が必要です。
CBD製品の危険性は? 体への悪影響・精神的な影響で考えられるリスク
また、効果と同じくまだ研究段階ではありますが、リスクについても様々な報告がされています。大量のCBDの使用によって肝障害が起こる可能性や、一部のCBD製品に含まれる汚染物質が胎児や乳児に害を及ぼす可能性、また、精子の形成を減少させて、男性の妊よう性に影響を及ぼす可能性があることなどが挙げられます。CBDが「法律の規制対象外」であると聞くと、法的にも安全性が認められたもののように思われるかもしれませんが、規制対象外であることは、安全性が保証されていることを意味しません。
例えば、厳正な試験と審査を経て、一定の安全性が認められたもののみが使用される医薬品ですら、健康被害が生じて問題になることがあります。一般的に流通しているCBD製品は、あくまでも食品・嗜好品として提供されているので、何ら医薬品のような安全基準は設けられていない状況です。使用は自己判断になりますし、将来的に危険性が明らかになる可能性もあることを、考えておいた方がよいのではないかと思います。
また、CBDは水に溶けない性質を持つ油なので、私たちの体内に入ると、全身の脂肪組織に浸み込んでいきます。そしていったん脂肪組織に入ってしまうと、なかなか血液循環には戻らず、排せつされにくいと推定されます。尿検査で検出されなかったとしても、長期間にわたって体内に残り続ける性質があり、繰り返し摂取するたびにどんどん蓄積していく可能性があることを知っておく必要があるでしょう。まだ正式なデータがないので不明ですが、摂取してすぐに異変が起こらなくても、適正量がわからないまま各人が適当に使い続けていると想定外の悪影響がでてこないかは懸念される点です。
いまのところ「安全」というふれこみで売られている各種CBD製品ですが、本当のことはまだよくわかっていないという点を認識した上で、自己責任の範囲で使用するものだということは、知っておくべきでしょう。