Q. 「ポテトチップスには依存性があり危険」というのは本当ですか?
ポテトチップスは依存性・中毒性があるから危険? 本当でしょうか
「ポテトチップス依存症」という言葉があるようです。 「ポテトチップスには中毒性のある成分が多く含まれていて、一度食べ始めるとやめられなくなるので、気をつけた方がいい」というものです。この説に類似するものとして、ポテトチップス以外のチョコレートなどの甘いお菓子やスナック菓子、パン、清涼飲料水などを、「マイルド・ドラッグ」と呼び、依存症になることを懸念する考えも一部で見られます。実際のところを解説します。
Q. 「ママ友から『ポテトチップス依存症』にならないように、子どもにお菓子を食べさせるのはやめた方がいいと勧められました。これまでポテトチップスなども特に制限させずに食べさせていましたが、犯罪率などとも関係があるそうで、不安になっています。実際にそのような傾向はあるのでしょうか?」
A. 心配無用です。注意すべきはお菓子の成分ではなく、心の状態です
普段お子様に食べさせているお菓子に危険性があると言われれば、誰でも不安になるものです。結論から言えば、心配する必要はありません。この説がどのようにして生まれたものなのか、本当に気を付けるべきものは何なのかをお話できればと思います。アメリカのある調査で、「甘い炭酸飲料を1週間に5缶以上飲んでいる高校生は、銃器類の所持率が高く、攻撃的・暴力的である」という報告があります。1978年に起きたサンフランシスコ市長殺人事件の犯人が、ジャンクフードを過食していたという点が注目されたこともあります。科学者の中には、こうした依存性を形成する疑いのある食品を分析し、人工的な添加物の悪影響を指摘する人もいます。ポテトチップスやそれに準じるお菓子類を危険視するのは、これらの事例や研究によるものでしょう。
しかし、これらはすべて間違いです。依存症の本質を理解すれば、無意味な心配であることがお分かりいただけるはずです。わかりやすく解説しましょう。
少し専門的になりますが、精神作用を示す薬物を繰り返し使用した際に生じる「薬物依存症」は、「薬物の摂取を繰り返した結果、その薬物を求める抑えがたい欲求が生じ、摂取していないと不快な症状が起こるようになった状態」のことです。また、薬物依存には、精神的依存と身体的依存があります。精神的依存が形成されると、薬物を使用したいという精神的な欲求をコントロールできなくなり、薬物が切れると激しい不安に襲われ、いてもたってもいられなくなります。身体的依存が形成されると、薬物が切れたときに、手足のふるえ、吐き気、意識障害などの身体的な「退薬症候」または「離脱症状」が現れます。俗にいう「禁断症状」です。これらの症状を抑えるためには再び薬物を使用するしかなく、常に薬物がないとまともにいられないという薬漬けの状態から逃れられなくなってしまいます。
薬物以外でも、たとえばギャンブルにはまってやめられなくなる「ギャンブル依存症」、無駄な買い物で浪費をすることをやめられなくなる「買い物依存症」、テレビゲームにのめりこんで飲食を一切せず四六時中ゲームを続けてしまう「ゲーム依存症」、スマホが手放せなくなり常時スマホを操作していないと落ち着かない「スマホ依存症」なども指摘され、社会問題の一つとしても議論されるようになってきました。「ポテトチップス依存症」などもその流れで登場した考えだろうと思います。
ただ、こうした話が出ると、すぐ「ギャンブルはよくない」「ゲームやスマホは与えない方がいい」「ポテトチップスは食べさせない方がいい」ととらえがちですが、よく考えてみましょう。同じことをしても依存症になる人とならない人がいるのです。ギャンブル、買い物、ゲームやスマホ自体が悪いのならば、全員依存症になってしまうはずですが、そうではありません。ギャンブルや買い物を楽しむことは悪いことではありません。スマホは便利な道具で、正しく使えば生活に役立ちます。ポテトチップスだって、おいしく食べればいいものです。問題は、その行為や物ではないのです。どのような気持ちでしているか、それぞれの人の「心の状態」が問題なのです。
現実の世界で、学校や仕事がつまらない、友だちとうまくいかない、人間関係に悩んでいるなど、嫌なことがあり、逃げ出したいと思うことで、現実世界とは異なるギャンブルやスマホなどに頼ってしまい、依存症になるのです。悩みもなく、毎日が充実している人がギャンブルを楽しんだりスマホを使ったりしても、依存症にはならないのです。
もう一つ注意して考えてほしいのが、相関関係と因果関係は違うということです。上で紹介した「甘い炭酸飲料を1週間に5缶以上飲んでいる高校生は、銃器類の所持率が高く、攻撃的・暴力的になるという調査結果が報告された」という事例については、解釈が誤っていると筆者は考えます。
甘い炭酸飲料を過剰摂取していることと、攻撃性・暴力性に一定の相関があったとしても、両者には直接の関係はないのではないでしょうか。たとえば、毎日の生活の中で悩みや不満を抱えている高校生が、好きな炭酸飲料を飲むことで解消しようとしますが現実には不満がなくなるわけではないので、炭酸飲料を飲むことを止められなくなる一方で、同じように不満を解消しようとして乱暴な行動に走ってしまうのではないでしょうか。つまり、高校生が抱えている心の問題が、炭酸飲料の過剰摂取と、暴力的言動の両方を導いているだけのことであり、炭酸飲料に含まれている成分(原因)が暴力性を作り出している(結果)というわけではないと思います。おそらく、心の問題を抱えていない高校生が同じ量の炭酸飲料を飲んだとしても、銃器を所持しようとは考えないのではないでしょうか。
ポテトチップスの成分がお子様の脳に悪影響を与えているという考え方のどこがおかしいか、お分かりいただけるのではないかと思います。
もし、お子様が気持ちが悪くなるほどポテトチップスを食べているのに、さらに食べようとするなど、明らかに食べ過ぎていて異常だと感じたら、それはポテトチップス自体が悪いのではなく、お子様の心に何らかの欲求不満があり、それを解消しようとしている問題行動だと読み取ってください。そして、そんなときにやるべきことは、ポテトチップスを与えないように制限するなどして抑圧することではなく、余計なことは言わずにお子様の声にしっかり耳を傾けるなどして、心にたまった悩みや不安を分かち合ってあげてください。お子様が、親御さんを「困ったときに救ってくれる存在」と認識できたときには、頼るべき対象がポテトチップスではなく、親御さんであるあなたに向かうようになるでしょう。人を頼りにすることは決して悪いことではありません。とくに成長過程にあるお子様には、困ったときには「人に頼る」ということを教えてあげるのも、親としての務めだと筆者は思います。
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