妻も子どもの自立には消極的
ヨウヘイさんは、カナさんにも子どもの自立を促したほうがいいと散々言ってきた。ところがカナさんは、「出て行くかどうかは子どもたちの気持ち次第」という姿勢を崩さない。「結婚する気も、ひとり暮らしをするつもりもない。だからといって、家の管理や運営に積極的なわけでもない。それなのに妻はせっせと子どもたちの食事を作り、家事をして世話を焼いている。洗濯など自分でやらせろと言うと、『水道代を考えたらまとめたほうがいい』と言うんです。近くのコインランドリーに行って自分でやらせろと僕は言ったことがあるんですが、妻は『そういうのって現実的ではないわね』と取り合わないんです」
ひとりで生活するということは、収入に見合った暮らしをし、男の子なら家事をするいい機会でもある。ヨウヘイさんはそう言うが、妻は「今さらひとりで暮らして家事をさせるのもかわいそうだし」と言っている。
「子どもたちに生活能力がないのは妻の教育のせいだと思います。娘も息子たちも家事ひとつできないなんて、ちょっと恥ずかしいですよね、今の時代」
いつまでも家がにぎやかでいい?
だが妻にはわかってもらえない。当の子どもたちにも通じない。働いてはいるが実家に寄生している子どもたちを、どうすれば自立させられるのかが、ここ数年のヨウヘイさんの悩みだ。「妻は子どもたちを自立させたくはないのに結婚はさせたいみたいなんです。特に長女には、やたらと見合い話をもってきますが、長女は『結婚なんてしない』とにべもない。結婚よりまず自立だろうと言う僕と、実家から結婚させたい妻との間で、ときどきいさかいが起こっているんです」
夫婦仲良くふたりで老後を楽しむはずが、子どもを巡って言い争いまで勃発しているのだ。予定では60歳の定年を迎えるまでにある程度貯金もしておいて、そこからは自分たちが楽しんで生きていくはずだった。ところが今は自分たちの生活設計まで変わりつつある。
「『いつまでも家がにぎやかなほうがいい』と妻は言うんです。大人ばかり5人が暮らしていても、別ににぎやかじゃないですけどね」
皮肉交じりにヨウヘイさんはそう言うが、子どもたちが将来のことをどう考えているのかはほとんどわからないそうだ。
「『まだ若いんだから』と妻は言いますが、子どもたちは実家があるから必死で自分の人生を切り開こうとしなくなる。人間、若いときはひとりで頑張るのも必要だと思うんですけどね」
ヨウヘイさんの「どうにも整理のつけようがない気持ち」が伝わってきた。