「離婚しようか」と夫が言い出して
そんな生活も板についてきたこの夏、マチコさんがリビングでくつろいでいると、夫が突然やってきて「今、いい?」と顔色をうかがった。「なあにと言ったら、『離婚してほしい』って。これは青天の霹靂でしたね。私から離婚を言い出すことはあっても、夫からは切り出さないと思い込んでいたから。そもそも夫は家事などほとんどしないし、私がいなければ日常生活が成り立たないはず。それなのに離婚ということは、女性がいるに違いないと思いました」
どうして離婚なのと聞くと、「こんな生活、楽しいか?」と夫は言った。確かに楽しくはないが、離婚をめんどうくさがる男性は多いはず。やはり不倫かと身構えた。
「一緒になりたい女の人がいるのと尋ねると、夫は首を横に振りました。『もういいだろ、家庭とか妻とかいう重荷を下ろしたらどうだ』って。私を慮っての離婚? そんなはずはない、この夫が。何かがおかしい。そう思いましたね」
夫の収入を知らずに25年以上
マチコさんは、私は離婚するつもりはないときっぱり言った。この答えに夫は驚いたようだった。夫のほうは妻に離婚という言葉を出せば乗ってくると思っていたのだろう。「実際に夫に女性がいるのかどうかはわかりません。でも夫が私を解放してやろうなんて優しさを持っているはずがない。女性がいないとしても、夫は自分が自由になりたいだけ。私を思っているふりをして、お金の問題を都合よく進めたいのではないかと思ったんです。結婚して25年以上経つけど、私は夫の収入を知らないままです。お金の管理は夫がしている。どうしてもあなたが離婚したいというなら、わが家の全財産を明らかにしてほしい。そう言いました」
すると夫は黙ってじっと妻の顔を見てから、自室にこもってしまった。夫が何を考えているのか、どう思っているのかマチコさんにはつかめなかった。
「私から夫に離婚を言い出せばよかった。ずっと我慢してきたのは私ですから。夫に離婚を切り出されたこと自体が許せないというか、悔しいというか……。最後までバカにされているような気がしてならなかったんです」
あれから数カ月たつが、ふたりの関係は変わっていない。彼女は今も「主婦」の役割を果たして家事をこなし、カレンダーに予定が書き込まれていないときは、夫の夕飯を作ってもいる。一緒に食べることはほぼないが、それでも作るのは主婦の務めだと思っているそうだ。
「いつまで続くのかな、この生活と思っています。離婚についても、いきなり言われて心が乱れたけど、今後はじっくり考えてみるつもりです」
言い出した側と受け入れる側、今も彼女は自分が言い出す側になるべきだったと感じている。