私を「この女」と言い放つ義母
結婚後も、義母は新婚生活にあれこれと口を挟んできた。夕飯時にいきなり訪ねてくることもあったし、週末は居座って泊まっていくこともあった。「さすがに夫も、『お母さん、僕たち新婚なんだよ。ふたりで家庭を築いていくスタートにいるんだ。ふたりきりにしてくれないかな』と優しく、だがきっぱりと言ったんです。そうしたら義母は『あんた、もうこの女にやられちゃって変わっちゃったのね。あんなにいい子だったのに』と涙ぐんでいました。彼によると『結婚前はあんなに息子に執着するようなそぶりはなかったのに、結婚後に変わったのは母親のほうだ』と。よほど寂しかったんでしょうね」
夫がまだ帰宅していないのを知っていて、急に義母がやってきたことがある。相変わらず掃除ができていないとか、作りかけの料理を見て「何これ、食べられるの?」と暴言を吐いたりしたが、カナさんは相手にしなかった。
「しばらくたってから、義母に『そんなに息子の妻に悪態をついて、おもしろいですか』と冷静に聞いてみたんです。すると義母は『あのね、嫁というものはいろいろ言われて学んで、我慢すべきなの。みんなそうやって立派に主婦になっていくの』って。私は主婦をするために結婚したわけじゃなくて、彼と結婚して彼の妻になったんです。嫁でもありませんと言ったら、『そうやって口ばかり達者だと、そのうち息子に捨てられるわよ』ってにや~っと変な笑みを浮かべるんです。お義母さんこそ息子に嫌われるんじゃないですかと言ってやりました」
義母にビンタされた!
義母は「私がどれだけ姑にいびられたか……。私なんて優しいわよ。あなたに嫁のしきたりを教えているだけなんだから」と繰り返した。「ああ、自分がいじめられたから、自分もまた息子の妻をいじめるのかと納得しました。そんなふうに意地悪を連鎖させるのは心が貧しいと思いますと言ったら、義母にビンタされて。本当に驚きました。痛くはなかったけど悔しくて泣きました」
そこへ戻ってきた夫に聞かれ、彼女は義母にビンタされたと静かに伝えた。夫は「おかあさん、いいかげんにして。帰って」と涙声になった。それでも義母は動かなかった。
「もういいよと私は言いました。もう疲れた、と。その日は私が身の回りのものだけ持って駅近くのビジネスホテルに泊まりました」
だが本当に疲れていたのは夫だったのだろう。翌日、帰宅すると夫はいなかった。しばらくひとりになりたい、ごめんねと書き置きがあった。それ以降、夫は友だちの家を泊まり歩き、帰宅しなくなった。
そして今、彼女はもともとの新居におり、彼は実家にいる。週末だけ彼がカナさんを訪ねてくるのだ。このスタイルになって半年がたつが、彼女はやはりこれでいいとは思っていない。ただ彼は「母親が落ち着くまで。ごめんね」と言い続けている。
「いつになったら落ち着くかわかりませんよね。週末、私だって予定があることもあるし、彼に急に仕事が入って会えないときもある。先月なんて会ったのは週末1回だけですよ。1カ月のうち2日しか一緒にいない夫婦なんて意味がないと彼に言ったら、ごめんと謝られて……」
結婚による幸福感がほとんど得られないまま、カナさんは日々、鬱々としている。彼女は、「せっかく好きな人と一緒になったのに、これほどまでの仕打ちを受けるなんて」と長いため息をついた。