子ども心に「ちょっとおかしい」両親
「うちの両親は昔から仲がよかったんです。姉と私のふたり姉妹ですが、母は子どもより夫というタイプ。父が帰宅すると母は何をしていても玄関に飛んでいって抱き合っている。姉と私が中学生のころ、『うちの両親、ちょっとおかしいよね』と思っていました」そんなチサトさん(35歳)の母が泣きついてきたのは、今年の初めだった。姉は両親を手本にしたのか25歳で結婚、3人の子をもって楽しそうに暮らしているが、自称「ひねくれ者」のチサトさんは仲良し過ぎる両親に背を向けて大学入学と同時に上京、今もひとりで生活している。
「正月休みに母がいきなり上京してきたんです。東京駅にいるといきなり電話がかかってきたので迎えに行ったら、私の顔を見るなり泣き出して。どうしたのと言ったら、『パパが浮気したの』と号泣。電車に乗るわけにはいかずタクシーで私の部屋に帰りました」
結婚40年、父親が告白した本音
ゆっくり話を聞くと、60代半ばの父は昔やっていたギターをまた習うようになり、その音楽仲間と浮気をしたということらしい。確証はないのだが、親しくしているのは間違いなさそうだ。「私は40年近く、パパだけを愛してきた。それなのにとさめざめ泣く母を見て、私は『長年、夫婦やってれば飽きることだってあるでしょ』と冷たく言ってしまいました。離婚を考えたらどうなのと言うと、『あんたは冷たい。こんなにパパを愛しているのに離婚を勧めるだなんて』と怒っちゃって。だったら私にそんな告白しないでよと笑うしかありませんでした」
その晩、父からチサトさんに電話がかかってきた。母は帰らないと言ってると脅すと、父は「誤解なんだよ」としょんぼりしている。誤解でも何でもいいから、私は明日から正月休みが明けて仕事だから迎えに来てよと言うと、「チサトだから話すけどさ」と父は声をひそめた。
「結婚して40年近くなるけど、母さんの愛が重いんだと言うわけです。若いカップルじゃあるまいし、今になって愛が重いも軽いもないでしょと諫めるように言ったら、『最近、母さんは妙に嫉妬深くなった』って」
母は、近くに住む長女を頼っていたのだが、チサトさんの姉は夫の仕事の都合で昨年春に遠方に越したばかり。それもあって母は寂しくてたまらなくなったのだろう。以前にもまして父を頼るようになった。父もそれに応えていたが、今も仕事を続ける父はにぎやかに友人たちと集まるのも好きなタイプ。母はそんな父を縛るようになったらしい。
>子育てを終え、寂しくなってしまった母は父を束縛