義母からの“自覚のない”嫌味
同居するにあたっては、「あなたは仕事もしているのだから、家のことは気にしなくていい」という義母の一言ですべてが決まった。主婦は義母、マリさんは外で働く。だが義母に自身の洗濯物をなどはさせられないし、夫婦の居室である2階の掃除もしてほしくなかった。「最初は2階の掃除までしてくれたのはいいけど、たまたま職場でもらってきた週刊誌を置いておいたら、『あなた、あんな週刊誌を読むの?』と言われて、ちょっとムッとしました。義母は自分がさばさばした、包容力のある女性だと思い込んでいるんです。だから『私たち、本当の母娘になりましょうね』なんて言ってた。そういうのも私は苦手でしたね」
義理の関係は義理の関係でしかない。私には実母がいますからと言いそうになったが、そこはぐっと飲み込んだ。
マリさんが長男を出産したときは「私の孫を産んでくれてありがとう」と言われたが、それも違和感があった。私は自分の子を産んだだけなのに、と。
「まあ、義母がいたから早く職場復帰もできたのは確かですけどね。夫も父親になって気持ちを新たにしたのか、すごくがんばって再就職してくれました。これで落ち着いて家族3人、生活していけると思ったんですが、同居しているとどうしても家族3人とはいかない」
だが、義母は義母で「家族3人」がまとまっていくのがおもしろくなかったのかもしれない。端的に息子を嫁に取られたと感じていたのだろう。
「私が残業で遅くなったりすると、わざわざ玄関まで出迎えるんですよ。『遅くなってすみません』というと、『仕事なんでしょう。謝る必要ないじゃない』って。『ご苦労さま』という言い方が妙に嫌味なんですよねえ。もちろん食費も生活費も入れていましたが、どこか居候させてもらっているような雰囲気になっていた。そこが義母のうまいところなんですよね、常にこちらに罪悪感をもたせるというか」
居候の私に「あら、素敵なお洋服」という義母
たまたまマリさんが新しい服を着て出かけようとすると、「あら、素敵なお洋服」と言う。「バーゲンで買ったんですよ」と答えると「いいわねえ。バーゲンだって私には買えないわ」と返ってくる。居候なのに洋服なんか買って……と言われているような気がすると彼女はため息をつく。「もちろん夫にはそんなことは言いません。家を買って出ていくなんてムダなことをするより、このまま同居していたほうがお金も貯まるでしょと言われたそうです。私としては義両親の老後は自分たちで何とかしてほしいんですが、同居を続けているうちに、私たちが老後のめんどうを見るものだと決めてかかっていて……。抜け出すなら早いほうがいいんですが、夫もこのままでいいと思い始めているようです」
夫には2歳違いの兄があるのだが、若いころに離婚して以来、ずっと独身で楽しく暮らしているようだ。趣味のバイクにお金をつぎ込んでもいるらしい。
「実家にもほとんど寄りつきません。夫は、兄貴はいい気なもんだと言っていますが、そういうこともあって、私たち夫婦が親のめんどうを見るものだと義兄も思っているんでしょう。そうならないよう、なんとかしたいのですが、なかなかうまくいきません」
私は裏表がない人間だから、私は楽しいのが好きだからと、義母は自分を分析しているが、マリさんから見ると「まったく当てはまらない自己分析をしているから困る」のだ。自分を客観視せず、自分の理想としている女性像を自分の性格だと思い込んでいるようにしか見えない。
「今日だって、出勤するとき、行ってきますと言ったら、『どうぞごゆっくり』と言われました。出勤する人間にそんなこと言います? 前日、たまたま残業で遅くなったから、そういう嫌味を言うんですよ。朝っぱらからそういうことを言われると士気が下がりますね」
マリさんの口調も尖っている。彼女のメンタルはかなり限界に近いのかもしれない。