実は夫に秘密があった……
だが、夫が妻に固執する裏には事情があった。それをチエコさんが知ったのはつい最近のことだった。「先日、コロナ禍以降初めて、夫と私が知り合った飲み会のメンバーが集まったんです。そのとき参加していた女友だちが、『今だから言えるけど、よかったね、こういうことになって』と意味深な発言をしたんですよ。何が? と聞いたら、『あ、ううん、なんでもない』って。
気になるじゃないですか。言ってよとうながしたら、彼女いわく『タケトは、あなたが前彼と別れるように浮気の噂を流した張本人だよ』って。なにそれって、私は大声を出してしまいました。タケトは私の声に鋭いまなざしを向けてきました。彼女が私に何かささやいているのを気にしていたみたい」
誰を信じたらいいのかわからない
帰宅後、タケトさんにストレートに尋ねた。あなたが私の恋を壊したのかと。するとタケトさんは密告した女友だちについて、「昔、彼女に言い寄られて断ったことがある。その恨みでチエコによからぬことを吹き込んだんだと思う」と言った。「誰を信じたらいいかわからなくなりました。今さら、昔のことをほじくり返してもしかたがないけど、それでも私の恋を壊したのがタケトだとしたら、私は許せない気持ちになります。あの飲み会に参加していた人たち何人かに聞いたけど、真相はわかりませんでした」
いずれにしても、夫が彼女を迎えに来るのは、やはり何か不安を抱えているからだろう。単に事故にあわないように、酔っ払いにからまれないようにといった心配とは違うようだ。
「しかもその女友だちによれば、『タケトのほうが浮気者のはずだけど……』という話もあった。私にアプローチして付き合うようになってからも、他の女性と会っていたはずだって。自分が浮気するタイプだから、妻の浮気も不安なのよって自信ありげに言うんです。彼女のことを信用するわけではないけど、確かに人にはそういう面がありますよね。自分が浮気するから相手の浮気も疑う……」
私は浮気なんてしないから、と夫には告げた。夫は「あんな女の言うことを信じないでよ」と悲しそうだったという。
「つい先日、学生時代の女友だちと土曜の昼間にランチをしたんです。夫はそんなとき、いつも送り迎えをすると言い出すので、『もう来ないで』と言い置いて、ランチの場所も告げずに家を出ました。夫は『オレを信じられないのか』と言っていましたが、私を信じているならひとりで行動させてよ、大人なんだからと言い返しました」
休日にひとりで外に出てみると、深呼吸ができるほど開放的な気持ちになった。夫は私を監視していたのではないかとあらためて感じたという。普段から夫はマメに連絡をとりたがるタイプだが、それもひょっとしたら「支配したい感覚」からきているのかもしれない。そう考えると、どこか薄ら寒い気持ちになった、今後は少し様子を見るつもりだと彼女はため息をついた。