麻薬特例法とは? 大麻取締法との違いをわかりやすく解説

【薬学部教授・麻薬研究者が解説】ある大学のアメフト部の大麻事件で、「麻薬特例法」による逮捕者が出たことが報じられています。大麻取締法と麻薬特例法はどう違うのでしょうか。また大麻草の栽培は、無期懲役もありうる重い犯罪です。わかりやすく解説します。

阿部 和穂

執筆者:阿部 和穂

脳科学・医薬ガイド

麻薬特例法とは何か

あまり聞きなれない「麻薬特例法」とは?

ある大学で起きた大麻事件が大きく報じられていますが、2~4人目の学生は「麻薬特例法」違反の疑いで逮捕または略式起訴されました。

大麻を規制する法律として「大麻取締法」が知られていますが、「麻薬特例法」というのは聞きなれないという人が多いと思います。わかりやすく解説します。
 

麻薬特例法とは……カバー範囲が広く、大麻取締法にない事項も含む法律

「麻薬特例法」の正式名称は、「国際的な協力の下に規制薬物に係る不正行為を助長する行為等の防止を図るための麻薬及び向精神薬取締法等の特例等に関する法律(平成三年法律第九十四号)」(※1)です。関心のある方は全文の内容をご自分の目で確かめることをお勧めします。

この法律の目的は、冒頭に次のように記されています。

第一条 この法律は、薬物犯罪による薬物犯罪収益等を剝奪すること等により、規制薬物に係る不正行為が行われる主要な要因を国際的な協力の下に除去することの重要性に鑑み、並びに規制薬物に係る不正行為を助長する行為等の防止を図り、及びこれに関する国際約束の適確な実施を確保するため、麻薬及び向精神薬取締法(昭和二十八年法律第十四号)、大麻取締法(昭和二十三年法律第百二十四号)、あへん法(昭和二十九年法律第七十一号)及び覚醒剤取締法(昭和二十六年法律第二百五十二号)に定めるもののほか、これらの法律その他の関係法律の特例その他必要な事項を定めるものとする。

また、規制の対象となる薬物については、次のように定められています。

第二条 この法律において「規制薬物」とは、麻薬及び向精神薬取締法に規定する麻薬及び向精神薬、大麻取締法に規定する大麻、あへん法に規定するあへん及びけしがら並びに覚醒剤取締法に規定する覚醒剤をいう。

「麻薬特例法」という略称だけを聞くと、対象としているのは麻薬だけだと誤解されそうですが、麻薬及び向精神薬、あへん及びけしがら、覚醒剤、大麻のすべてをカバーしている法律です。また、薬物犯罪に関するマネー・ロンダリングの処罰、不法収益の没収、泳がせ捜査など、従来の法律にはなかった事項を含んでいるのも特徴です。

大麻に関していえば、「大麻取締法」で扱われていなかった事項も定められていますので、現在の大麻関連の取り締まりは、「大麻取締法」と「麻薬特例法」の両方に基づいて行われます。

「麻薬特例法」では、
  • 大麻取締法第二十四条、第二十四条の二又は第二十四条の七の罪(無許可の栽培、輸入、輸出、所持、譲渡し、譲受け、譲渡しと譲受けの周旋)
  • 大麻取締法第二十四条の四の罪(罪を犯す目的の予備)
  • 大麻取締法第二十四条の六の罪(関連した資金、土地、建物、艦船、航空機、車両、設備、機械、器具又は原材料(大麻草の種子を含む)の提供又は運搬)
を「薬物犯罪」と位置づけています。またこのうち、無許可の栽培、輸入、輸出、譲渡し、譲受けに対しては、「無期又は五年以上の懲役及び一千万円以下の罰金」という罰則を定めています。
 

「育てただけ」でも重罪! 大麻草の栽培は無期懲役にもなりうる犯罪

大麻草の栽培については、「植物を育てるだけだから」と安易な気持ちで栽培にかかわってしまうケースがあるようですが、大麻草を栽培するということは規制薬物を製造していることと同じです。その観点から、非常に重い罪が科せられています。「大麻取締法」では、個人的な無許可の栽培に対して「七年以下の懲役」、営利目的なら「十年以下の懲役」を定めていますが、「麻薬特例法」では、営利目的の栽培に対して「無期懲役」を定めているのです。同じ薬物犯罪に対する罰則が別の法律で重複して定められている場合、重い方が適用されますので、現在では「麻薬特例法」の方が優先されます。気軽な気持ちで大麻草の栽培を行っただけでも、規模によっては「無期懲役」にもなることがあるのです。

「麻薬特例法」のもう一つの重要な特徴は、規制薬物に係る不正行為を助長する行為等の防止を図ることを目的としているため、「規制薬物」そのものが見つからなくても検挙できるという点です。

現在問題になっている大麻事犯においては、被疑者が所持していたと思われる大麻そのものが見つからなくても、多数の薬物取引をしていたことを裏付ける証拠とともに「薬物犯罪(譲渡し、譲受けまたは所持)を犯す意思がある」と認められたため、「大麻取締法」ではなく「麻薬特例法」に対する違反の容疑で逮捕または略式起訴に至ったものと思われます。

なお、2023年12月6日に、現在の大麻取締法を改正する法案が国会(参議院本会議)で可決・成立しました。これにより、近いうちに「大麻取締法」は、「大麻草の栽培の規制に関する法律」(昭和23年7月10日法律第124号)に変わり、「大麻」の定義が「大麻草(その種子及び成熟した茎を除く。)及びその製品(大麻草としての形状を有しないものを除く。)」となります。また、あわせて「麻薬及び向精神薬取締法」も改正され、その第二条第一項で「別表第一に掲げる物及び大麻」を「麻薬」と定めることになりました。別表第一には、幻覚を生じることが知られる大麻由来の成分(テトラヒドロカンナビノール; THC)も含まれています。さらに連動して、「麻薬特例法」の中の条文も一部改正されます。

今回の大学における大麻事犯で取り扱われた「乾燥大麻」は大麻草の葉や花穂を乾燥させた加工品で、これまでの法律だと「大麻」に相当しますが、今後は「麻薬」に相当し、不正な譲渡し、譲受け、所持、使用などに対して、より重い処罰が科せされることになることを申し添えておきます。

■参考
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