脳科学・脳の健康

Q. うっかりルール違反をして、後悔することがあります。直せますか?

【脳科学者が解説】安全第一とわかっているのに、車の運転中に無理な追い越しをかけてしまったり、忙しいときに「ちょっとだけいいか」と職場のルールを破ってしまったり。頭ではよく理解できていることを、とっさに破ってしまうことがあるのはなぜでしょうか? 理由と対策法をご紹介します。

阿部 和穂

執筆者:阿部 和穂

脳科学・医薬ガイド

Q. ルール違反をしてしまって、後悔することがあります。直せますか?

運転中の後悔

「わかっていたのに、やっちゃった……!」 うっかりルールを破ってしまうことがあるのはなぜ?


車を運転しているとき、「安全運転が大事」と十分わかっているはずなのに、とっさに危ない追い越しなどの交通違反をしそうになったことはありませんか? 頭では理解できているのに、瞬間的にルールに反する行動をとってしまうことがあるのはなぜでしょうか? 「魔が差した」ような行為はやめられるのか、脳科学的に解説します。

Q. 「してはいけないとわかっているのに、とっさにルール違反をしてしまうことがあります。『ちょっと魔が差してしまった』と、冷静になってから反省するのですが、繰り返さないためには、何に気を付ければいいのでしょうか?」
 

A. 理性的に判断する脳と、本能的に行動する脳は別です。疲れたら休みましょう

そもそも「ルール」とは、物事を行うときの約束事ですね。社会生活を円滑に営むために、すべての人の認識を合わせておく上で、ルールは必要です。

動物にも一定のルールがあるかもしれませんが、それらの多くは「種を保存するため」という本能的な必要性から自ずと生じたものでしょう。それに対して、人間が作ったルールは、ちょっと違います。

自動車を運転するとき、日本では基本的に「左側を走る」と決められていますが、諸外国の中には右側走行のところもあります。必ずしも、左側走行の方がいいという絶対的理由があるわけではありませんが、どちらかに決めておかないと、「私は右側を走りたい」「自分は左側が好き」と運転手が好き勝手に車を走らせて大変なことになってしまいます。ですから、どちらかに「申し合わせ」をしているだけです。高速道路の走行速度なども同じです。それぞれが好きな速度で走行すると、渋滞が発生したり、事故の危険性が増したりしますから、一定の走行速度を保つように「申し合わせ」られているのです。

このように約束事を決め、またそれを守れるのは、私たち人間だけで特に発達した脳の部分、「前頭前野(ぜんとうぜんや)」の働きによるものです。

前頭前野は、ちょうどおでこの辺り、大脳の一番前方に位置している脳の部分で、本能的な欲求などにブレーキをかけて制御する役割を果たしています。脳の病気の中には、この前頭前野を含む前頭葉の神経細胞が原因不明に失われていくものがあり、そのような病気にかかった方は、万引きなどの犯罪行為を平気でしてしまうことがあります。

たとえば、スーパーの店頭においしそうな総菜が並んでいると、多くの人が「食べてみたい」と思うでしょう。これは、本能的な脳の働きによって無意識のうちに生じる自然な欲求で、決して悪いことではありません。しかし、社会的なルールに照らし合わせて判断して「売り物だから勝手に食べてはいけない」とブレーキをかけられるからこそ、手を出さないのです。ところが、前頭前野が障害された方の場合は、本能的な欲求を制御できずに、無意識のうちに総菜に手を出してその場で食べてしまうことがあります。こうした例からも、社会的ルールを守ろうとするときには、ちゃんと前頭前野が働いていなければならないということがよく分かるでしょう。

会社組織にたとえるならば、前頭前野は「取締役」のようなものです。脳全体の活動を見張り、バランスよく脳が機能するように常にコントロールしています。状況が変わるごとに、あらゆることに対して臨機応変に対応することを求められるため、負担が大きく、疲れやすいです。私たちが「頭が疲れた」と感じているときは、正確にいえば「前頭前野が疲れた」ということであり、前頭前野は休まないとダウンしてしまいます。私たちが夜になると睡眠をとるのは、前頭前野をしっかり休ませ回復してもらうためでもあるのです。

理解しているつもりなのについついルールを破ってしまうのは、前頭前野が疲れているときとも考えられます。意識してルールを守るためには注意力も必要ですが、前頭前野がうまく働かないと、この注意力も低下してしまうのです。うっかりいい加減なことをしてしまったなというときは、しっかり前頭前野を休めましょう。日中であれば昼寝をして、夜であればさっさと寝ましょう。休んで頭がすっきりした感じがしたときには、きっと前頭前野の力が復活しています。また、悩み事や心配事のせいで注意散漫になっているという自覚がある場合は、それらの問題を解決することが先決です。

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