Q. 左利きの人には天才が多いというのは本当ですか?
左利きの方が頭がいい? 本当でしょうか
右利きの人が多い社会の中で、左利きの人は、どうしても目立ちます。そのためか、左利きの人ならではの特徴や右利きとは違う性質があると考えられることもあるようです。実際のところを、解説します。
Q. 「左利きの人の方が頭がいいとか、芸術脳と言われることがありますが、本当ですか? ノーベル賞受賞者が多いとか、有名な芸術家や科学者は左利きが多いといったデータがあるのでしょうか? 私は残念ながら左利きではないのですが、気になります」
A. 嘘です。脳科学的に「脳に違いがあるから左利き」ということもありません
そもそも「天才」とは何かによって答えが変わるかもしれませんが、ここでは人並み優れた才能を発揮する人のことを考えてみましょう。左利きは天才が多いと言われる理由の一つに、「ノーベル賞受賞者には左利きが多い」という通説が挙げられると思います。有名なところでは、湯川秀樹、キュリー夫人、アインシュタイン、ヘミングウェイは、たしかに左利きだったようです。これを見て「やっぱり左利きは天才が多いのか」と思われたかもしれませんが、ちょっと待ってください。いくつかおかしな点があります。
まず、世界的に左利きがどれくらいいるのか、正確なデータはありません。事実として確実に言えるのは、「ノーベル賞受賞者の中には左利きの人がいた」ということだけです。また、右利きでノーベル賞をとった人も多くいるので、「右利きも天才だ」と言えるかもしれません。
こう説明すると、「右利きより左利きの方が珍しいのだから、ノーベル賞受賞者の中に左利きの人が複数いるなら、左利きの方がやはり天才だ」と反論される人がいるかもしれません。しかし、そもそもノーベル賞をとる確率自体、「落雷で死ぬ確率」と同じくらいと言われています。右利きであれ左利きであれ、ほとんどの人はとれないのです。つまり、左利きでノーベル賞をとった人の割合と、右利きでノーベル賞をとった人の割合は、どちらも天文学的に低い数値です。「右利きでも左利きでも、ノーベル賞はめったにとれない」というだけのことで、そのような極端に小さな数の傾向から、左利きと右利きの違いを考えるのは、あまりに無理がある話です。
ではなぜ、「左利きは天才」という通説ができたのでしょうか。おそらく、「右利きの人が多い社会の中で、左利きの人が目立つ」というのが主な理由だと思います。
私たち人間は、社会性の動物です。脳も、集団の中で自分と他人の違いを気にするようにできています。そのため、集団をいくつかに分類して、同質と異質の存在を区別したがります。右利きと左利きを区別して何か意味を見出そうとするのもそのためでしょう。星占いや血液型性格診断と同じようなものだと思います。
「左手を動かすのは右脳の役割で、左利きの人は右脳が発達しているので、芸術や直感に優れている」「左利きは芸術脳だ」という話も見かけますが、これも脳科学的に考えて誤りです。右脳の中で運動を司る部分と芸術的才能を生み出す部分は別であり、つながっているかどうかもわかっていません。また、左利きの人の中でも、脳の構造や働きには個人差があります。「右利きだから」「左利きだから」などと、利き手で利き手以外の性質まで論じること自体、ナンセンスなことなのです。