緊張してドキドキすることもストレス反応の一つ
「Q. ストレスは実際に「溜まる」のでしょうか? そもそもストレスって何ですか?」で解説したように、生体反応としての「ストレス」は、「寒冷、感染、心労など体外からの刺激に応じようとして体の内部で生じる様々な体や心の反応」のことです。より具体的には、外的な刺激にさらされたときに、緊張してドキドキする、血圧が上がる、呼吸が速くなる、不安になるなどの体や心の変化をさします。
体のしくみとして、これらのストレス反応を起こす中心的役割を果たしているのが、「自律神経系」と「内分泌系」です。それぞれの役割と働きについて解説します。
ストレス反応における自律神経系の役割は、心身の興奮状態を作り出すこと
「自律神経系」には交感神経系と副交感神経系があります。まさに車のアクセルとブレーキのように、それぞれが逆の働きをしていて、常にバランスを保つことで体の状態が安定するように調整してくれています(詳しくは「Q. 「台風の予報でワクワクする」のは不謹慎でしょうか?」をあわせてご覧ください)。私たちが日中、外的な刺激にさらされたときは、自動的に交感神経の働きの方が優位になり、体や心に活発な興奮状態を作り出します。「緊張してドキドキする」というようなときには、まさに交感神経が活発に働き、これからやらなければならないことに対して体が素早く応答できるように準備をしているのです。筋肉を使って動くためには、エネルギー不足にならないように、酸素を含んだ血液をどんどん送り届けなければなりませんから、血液を循環させるポンプとしての心臓の動きを活発にさせようとしているのが「ドキドキ」(心臓の動きが大きく、かつ速くなっている状態)です。また、全身にくまなく早く血液を送り届けるために血圧が高くなりますし、空気中の酸素をたくさん体内に取り入れるために呼吸が早くなります。これらの反応は、すべてストレッサーに対するストレス反応の一種です。ストレス反応における内分泌系の役割は、心身の活動に必要なエネルギーを準備すること
一方の「内分泌系」では、下垂体と副腎皮質という臓器が、ストレス反応に中心的役割を果たしています。脳の中の視床下部というところが感知した外的刺激の情報は、視床下部の下にぶらさがっている下垂体の前葉の特定の腺細胞を刺激し、「副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)」というホルモンを分泌します(詳しくは「視床下部の役割は?自律神経系、内分泌系を調節する重要な機能」、「視床下部にぶらさがる下垂体…構造と機能をわかりやすく解説」をお読みください)。ACTHは血流にのって運ばれ、副腎まで到達すると副腎皮質を刺激し、副腎皮質の束状層から副腎皮質ホルモンの一種である「コルチゾール」という物質を放出させます。コルチゾールは、体内で糖分を作る反応を促して血糖を上昇させたり、筋肉のタンパク質を分解してアミノ酸を作り出したり、脂肪組織中の脂肪を分解して体内の他の組織に脂肪を再分配する役割などを果たします。これは、私たちが精神的・肉体的に活動を向上させなければならない場合、つまり活動のためのエネルギーが必要な状態になったときにちゃんと応じることができるように準備してくれている変化とみなすことができます。つまり、副腎皮質ホルモンにより生じる反応も、ストレッサーに対するストレス反応の一種です。自律神経系と内分泌系は「働く時間経過」が違う
ここで一つ、疑問がわくかもしれません。ストレス応答のために、どうして自律神経系と内分泌系という二重のシステムが用意されているのでしょうか。実は、自律神経系と内分泌系では、働く時間経過が違うのです。自律神経は、「素早い応答システム」です。危機に直面したときに、急に心拍や呼吸が早くなるといった反応は、自律神経系によるものです。一方の内分泌系は、「比較的長く働くシステム」です。ホルモンが分泌されて作用するまでにある程度の時間がかかるため、すぐには応答できませんが、比較的長期間にわたり体や心の状態を変化させるのに役立ちます。
たとえるなら、自律神経系は瞬発力に優れた100メートル走選手、内分泌系は持続力に優れたマラソン選手とでも言えるでしょうか。
自律神経系と内分泌系は、お互いに補い合ってストレス応答を生じています。外部環境の変化に対して、私たちの体や心が適応するのに役立っているのです。