「大げさだよ」ですませようとする夫
何かハプニングが起こったとき、人によってはさらにその先を考えてリスク回避をしようとする。一方で、もうこれ以上は何もないと安堵するタイプの人もいるだろう。「私はどこまでもリスクを考えるほうですね。以前、子どもが学校で友だちにからかわれたと泣いて帰ってきたことがあるんです。話を聞くと、いじめというほどではないけど、このままいくといじめになる可能性が高そうだと感じた。だからすぐに担任に連絡をとって、注意深く見てほしいと頼みました。夫にそのことを話すと、『まだ親の出る幕じゃないだろ』というんですよ。当時、息子は小学校2年生だった。でもいじめが起こらないとは断言できない。夫は『モンスターペアレントだと思われそうだなあ』とそれとなく私を批判したんですよね」
あのときのことは忘れないと、サヤカさん(40歳)は唇を噛んだ。その後、息子には何も起こらなかったが、別の友だちが標的となりかけた。担任はいちはやく対処したので大事には至らなかった。
「その後、担任から『早くお知らせいただいたので目配りができました』と言われたんです。夫にそれを言ったら、『きみがいじめを食い止めたというわけだ』と揶揄するような口調でしたね。『だいたい、親も教師も大げさなんだよ。放っておけば子ども同士で解決するだろ』というのが夫の主張。でもそうはいかない時代だから、みんな心配しているわけで。現実的じゃないんですよね、夫は。現実を知らないままに理想を述べるだけ」
議論したい妻と逃げ回る夫
夫に対して、非常に手厳しいサヤカさんだが、それもこれも夫が口癖のように言う「大げさなんだよ」に反発しているから。大げさなんだよと言っている間にも、ことは進行しているというのが彼女の主張だ。「気になることは早めに問題視したほうがいい。でも夫は、ものごとはなるようになるんだから大丈夫って。政治だって経済だって、なるようになっていないのが現状でしょう? そんなことを言うと、『夫婦で天下国家を論じたくない』と逃げるんです。夫と私、大学の同期なんですけど、彼は国文科、私は政治経済学をやっていた。あのころから大きなことを論じずに逃げ回るヤツだと思っていたけど(笑)、今に至っても同じなんですよね」
議論をしたらサヤカさんにはかなわない。それがわかっているから夫は逃げる。そしてリスクを見つめる妻を「大げさなんだよ」と外野的に野次るだけ。
「まともに正面からぶつかろうとしてこない夫に、いつもモヤモヤしたものを抱えています」
何でも議論したい妻にとって、逃げる夫は手応えがなさすぎるのかもしれない。