ある日、彼女が号泣、りくさんが慰めている様子が流れていた。彼女は友だちにプレゼントするためにクレーンゲームにチャレンジしたものの、4000円を使ってもまったく取ることができなかった。そこで号泣、「ごめぇんね」と彼に謝っていたのだ。
この動画は一気に炎上、500万回以上再生されている。ふたりは財布をひとつにしているので、そこからお金を使ってしまったことを彼女は反省していたらしいが、号泣が嘘ではないのかとか、ここまで悔しがると微笑ましいとか、さまざまな感想が寄せられた。
こういう動画を流す意図も、それに大きな反応を示すのも、大人には不思議な気さえするのだが、同世代から見ると彼らのありようや日常が興味深いのだろう。そして彼女のまっすぐさを評して「犬系彼女」という言葉も生まれている。
「犬系彼女」は素直で甘え上手?
「犬系彼女」とは、人なつっこい、甘え上手、素直など、おおまかに犬の性質をもったような女性のこと。気まぐれでマイペースであれば「猫系彼女」なのだろうか。カテゴライズしたほうがわかりやすいと感じる世代の特徴的な言い方なのかもしれない。動画を観ると、ふたりが心を許しあっているとわかる。つまりは、一昔前に流行った「ラブラブカップル」なのだ。ふたりきりでいるときに素直に甘えたり甘えられたりする関係なのは、決して悪いことではない。
32歳男性、「犬系彼女」にホッとする
過ぎるのも過ぎないのも、恋人同士の関係にはよくない
「外ではがんばっていても、僕の前では自然のまま、素の彼女でいてくれる。そういう女性とだったら一緒にいて楽しいと思う」
ヒロアキさん(32歳)はしみじみとそう言う。彼が2年つきあって結婚も考えた彼女と別れたのは、彼女が私生活でも「張り合う体質」だったからだ。
「彼女とは同じ会社でした。仕事が好きでバリバリ働き、上司にも正論を言ってしまうタイプ。不器用だけどまっすぐなところに惹かれました。ただ、絶対に人に甘えたくないという気持ちが強かったんでしょうね。ふたりきりでいても、僕に対抗するような言動が多かった」
たとえば彼女は「おごられたくないから」と、デート代は常に割り勘。ふたりとも働いているからそれでもいいのだが、彼女の誕生日に「たまにはごちそうさせてよ」と言っても受け入れてくれない。プレゼントを渡すと、それに見合った金額のものが自分の誕生日に返ってくる。
「ただの友だちじゃない。つきあっているんだから、きちんと半々にしなくてもいいでしょと言ったことがあるんです。すると彼女、『そういうところで借りを作りたくないの』って。ふたりの関係をそんなふうに感じているのかとちょっとがっかりしました。あるとき彼女の故郷のお母さんが倒れた。翌日の朝一番の飛行機で実家に帰るというから、空港まで車で送ると言ったんです。すると彼女、『迷惑をかけたくないからいい』と頑なに拒否する。結局、始発電車では間に合わないからと、タクシーを呼んで行った。僕だってただの友だちなら、そんなことはしない。こちらの愛情を受け入れるのも愛情だと思うんだけど、彼女には通用しなかった」
甘えない彼女は潔いとは思ったが、彼は少し寂しかったという。そんなすれ違いが積み重なって、「つきあっている意味」が見えなくなっていったそうだ。
29歳男性、社会に出て「犬系彼女」が重荷に
だからといって甘えればいいというわけでもない。お互いの相性といってしまえばそれまでだが、程度問題でもある。「僕がつきあっていた彼女、めちゃくちゃ甘え上手でかわいかったんですよ。僕さえいれば今日もうれしい、という感じ。最初は楽しかった。自分の価値が上がったような気さえしました」
苦笑いしながら、そう言うのはコウイチさん(29歳)だ。学生時代からつきあっていた彼女とは、「いつか結婚しよう」と言い合っていた仲だ。甘えん坊でかまってちゃん。だが、それは学生時代だからこそのことだと彼は思っていた。
「ところが就職してからも彼女は基本的には変わらなかった。その日のできごとを僕に話さないと気がすまなかったり、週末は一緒にいたがったり。ただ、僕も研修があって遠方に行ったり、仕事を早く覚えなければいけないとプレッシャーがあったりして、以前よりひとりでいる時間がほしくなったんです。夏前に彼女にそういう話をしました。今が大事な時期だから、毎日連絡をとりあうのもむずかしいことがあるし、週末はずっと一緒にいられるとは限らない、と。すると彼女は大号泣。『私のことが嫌いになったの?』と。そうじゃないと言ってもわかってもらえなかった」
甘え上手のかまって系が重荷に
彼にべったりで、いつでも甘えてくる彼女が好きなのは確かだった。外で待ち合わせたとき、コウイチさんの顔を見ると、うれしくて走ってくる彼女がかわいかった。だが、社会に出てみると、そういう彼女が重荷になった。「いろいろなことを相談してくるんですが、正直言って、それは自分で対処すればいいということが多くて。僕はきみじゃないから、とときどき言っていました。冷たいわけじゃなくて、自分のことは自分で決めたほうがいいという意味で。でも彼女は『コウちゃんは変わった』とよくつぶやいていましたね」
結局、社会人になって3年ほどで彼女とは別れた。まっすぐで甘え上手でかわいい「犬系」の彼女だったが、「犬に例えるのは変だけど、その喩えを使うなら、犬には犬の意志があるはずなんですよ。意志を曲げてまで飼い主に仕える必要はない。しかも彼女は自立した人間であって、飼い主などいないんですから」と彼は、ど正論を吐き出した。
「犬系彼女」に感じるモヤモヤはそこなのかもしれない。素直で甘え上手な女性であっても、自分自身のすべてを委ねてくるようであれば、それは彼の負担になる。互いに歩み寄って歩幅を合わせるならともかく、寄りかかったらふたりとも倒れてしまうのだ。
「犬は犬だからいいのであって、過去のこともあるから犬系彼女には抵抗があります。人はそれぞれもっとわがままでいいと思う」
程度問題とそれぞれの度量と、そして相性がものを言うのかもしれない。
【関連記事】