コロナの影響で本部役員が次々退任。PTA解散へ……
「こんなにあっけなく、PTAがなくなるものだとは思っていませんでした」と話すのは、埼玉県草加市立松原小学校(児童数約420人)のPTAボランティアセンター長をつとめる大上哲治さん(2023年10月現在、小学4年生・6年生の父親)。2019年度、大上さんは同小学校のPTA会長になりました。
「就任当時はいわゆるガチガチのPTAでした。自動加入や一児童ひと役制、くじ引きによる委員決めで引き受けられない場合は、みんなの前でその理由を話さなければいけない“免除の儀式”もありました。会長になって現状をくわしく知り、義務的・強制的なこれらの仕組みは何とかならないかと考え始めたのです。参加するのは、ほぼ母親という点にも違和感を感じていました」(大上さん:以下同)
そして会長2年目の2020年度、コロナ禍で活動が自粛されるなか、松原小PTAでは「活動を省力化・適正化していこう」とこれまでのやり方の見直しを開始。しかしその矢先に、よもやの事態が起こりました。 次年度も本部役員をつとめる予定だった大上さん以外の保護者全員が、コロナによる家庭の事情などで次々と退任してしまったのです。
会議の結果、活動の継続が困難と判断し、現状のPTAをいったん「解散」しようという結論に……。
「校長先生は、PTAがなくても基本的に学校自身で運営できるくらいの体制が大切というお考えだったため、解散については理解をいただきました。ただし、教頭先生の希望により、児童の登校見守りを行う地域委員の活動だけは存続させることにしました」
解散という想定外の展開になりつつも、「保護者や学校にとって適正な形で機能するコミュニティにすれば、真の意味で子どもたちのすこやかな成長につながる活動ができるのではないか。そのために持続可能な仕組みをあらためて考えて、答えを出したかった」という大上さん。
2021年度は「再構築の一年」にしようと、前年度役員や新しく推薦されていた保護者に声をかけて、賛同してくれた新役員2名、会計1名と大上さんというメンバーで、新たな道を模索することになったのです。
「PTAそこまで言って委員会」を発足して、新体制を構築
大上さんは、PTA改革に関する書籍を読むなどしながら、保護者と学校をつなぐコミュニティのあり方について自ら学びました。まずは意見を集めるべく、保護者宛のおたよりにLINEオープンチャットのQRコードを掲載し、松原小PTAのこれからを考える「PTAそこまで言って委員会」のメンバーを募集。
「『子どもが入学したばかりなのに、コロナ禍が続いて学校に足を運べないから、もっと様子を知りたい』という低学年の子のお母さんや、お父さんの参加もありました」
オープンチャットには、10数名の保護者が登録。そのメンバーによるミーティングや保護者アンケートを踏まえ、 「強制ではなく自主的に活動を選べて、保護者と教職員が協力できる体制を実現できる組織」をコンセプトに、
- 任意加入、入会届・退会届の整備
- 「PTA本部」は「ボランティアセンター」へと名称変更
- 委員会を廃止。保護者が自主的に行う「サークル制」にしエントリーで募る形に
- 学校行事やサークル活動をサポートする保護者を募る「スポットボランティア制」を導入
「学校のトイレが汚い」という保護者の声から校内清掃サークルが誕生
2022年4月、新体制がスタートしました。本部は大上さんをボランティアセンター長に「PTAそこまで言って委員会」のメンバーを含む11名で会計や各サークルの窓口をつとめることに。
またボランティアセンターと保護者をつなぐICT連絡ツールとして「コドモン」を導入し、各サークルなどと連絡や連携を行うようになりました。
当初サークルは、
- 1年生下校見守り隊
- 地域委員会
- はなぐり物語(読み聞かせボランティア)
「松原小は、以前からあった北谷小学校と花栗小学校が合併し、2009年に誕生した学校です。『はなぐり物語』は合併前から保護者OG中心の読み聞かせボランティアとして別の位置付けで存在していたのですが、これを機に松原小PTAのサークルとして活動していくことになったのです」
また年度途中に保護者から「校内の清掃活動をしたい」という声があがり、新たな校内清掃サークル「松ぼっくりーん」も誕生。
「以前から学校のトイレが汚いという子どもたちの声がありました。トイレは年に一度、業者を入れて掃除をしているものの、児童による掃除では、危険防止の観点から洗剤を使っていません。そこで新たに生まれた『松ぼっくりーん』で、主に学期末に清掃を行うことになったのです。日時を決めて必要な備品を検討し準備した上で、スポットボランティアさんを募集し実施しています」
現在サークル活動については、「松ぼっくりーん」に続き、文房具のリサイクルサークルが新たに誕生する動きもあるといいます。
PTA会費から支払い義務のない「支援金」へ変更
さらに、これまで当たり前のように集めていた「PTA会費」を廃止。会の趣旨に賛同する保護者から「支援金」として、資金面で応援してもらう方式へ変更しました。「任意加入に移行することで、入会しない家庭も出てくることが予想されるわけですが、そもそもPTA活動は、入会の有無に関わらず全児童を対象とする活動です。そのため『PTA会費』という言葉が、入会・非加入の家庭の分断につながるように感じていました。ボランティア活動は、集まった人数、集まったお金の中でやりくりするのが基本。支援金とすることで、義務感や強制感を払拭できるのではないかと考えました」
そして一口3000円で支援金を呼びかけたところ、2022年度の活動予算を上回る金額が集まったそうです。
合言葉は「参加できる時で大丈夫」。持続可能なコミュニティに向けて
新体制2年目の2023年度から「任意加入制」を正式に導入し、2023年10月現在、PTA加入率は約90%。「サークル制にしたことにより、興味関心のある保護者が主体的に活動できるようになりました。管理運営は各サークルにまかせているため、ボランティアセンターメンバーも義務感なく関わることができ、精神的負担も軽減されたと思います」 一度は解散まで追い込まれた松原小PTAですが、“スクラップ”したことにより、「子どもたちのために何ができるか」「どんな活動が必要なのか」についてあらためて考える機会ができたといいます。
またそれにより、保護者による主体的な活動が生まれ、自然な形で“ビルド”の風土が芽生え始めているところに、持続可能なコミュニティとしての可能性を感じます。
「組織としてかなりシンプルになったため、可能な限りこのスタイルを保ちつつ、今後はボランティアセンター長を複数体制にする、新たなサークルが自然発生的に誕生しやすい風土づくりを模索するなどを視野におきながら、進化を続けていければと思います。今後はますます少子化が進み、PTA会員だけが活動に参加する運営には限界がくると感じています。将来的には、PTA会員だけではなく広く参加者を求めながら運営していくことが、 持続可能なコミュニティづくりにつながっていくと思っています」
草加市立松原小学校PTAボランティアセンター長・大上哲治さん