風邪気味だと言いながら
その数日前から、マミさんは体調があまりよくないとは言っていた。早く医者に行くようエイタさんは言ったのだが、仕事が忙しくて行けないという。マミさんの勤務先のビルにクリニックがあるのを知っていたので、仕事の合間に立ち寄ればいいじゃないかと語気を強めたのをエイタさんは覚えているそうだ。「それでも行かなかったんでしょうね。我慢して、保育園に子どもを迎えに行って帰宅して、上の子の宿題を見ながら夕飯の支度をしていた。母が夕飯は私が作ると言ったけど、自分がやると譲らなかった。そしてその晩、ほとんど食欲がないと言って食べずに2階へ上がっていった。直後、僕が見に行ったら、なんだか意識がもうろうとしている。あわてて救急車を呼びました」
入院して検査をしてみると、過労とストレスで臓器の働きが弱くなっているのだという。思い当たる節はあるかと医師に問われ、エイタさんは状況を説明し、「自分が完璧にやらないと気が済まないみたいで」と言い訳のように伝えた。
その後、マミさんは1週間ほど入院した。退院したときは家族に「心配かけてごめんなさい」と頭を下げた。
頑張りすぎは「迷惑だ」と言ってしまった
「母が、『ねえ、マミさん。私は家族が元気でいてくれるのが一番なの。だからたまには食事の支度なんて手を抜いて、冷凍食品ですませてもいいし、何か取り寄せてもいいじゃない? もう少しゆったり暮らしましょうよ』と言ったんです。するとマミは『でも私、子どもたちにはちゃんと自分で作ったものを食べさせたい。栄養上もそれが一番いいので』って。そのために自分が倒れたんじゃ意味がないよと僕が言うと、『私がこんなに頑張っているのに認めてくれないの?』って。いや、『認めてるけど頑張りすぎるのはむしろ迷惑だよ、こんなふうに入院したら、家族みんなが大変になるんだから』と言ってしまったんですよ……」母が「言い過ぎ」というようにエイタさんを突いたが、エイタさんとしては言うべきことは言っておきたかったのだ。マミさんがわざわざひとりで苦労を背負い込むようなことになってほしくなかったから。
「でも僕の意図は伝わらなかったみたい。マミはいつでも100%頑張らないと不安になるんでしょうね。その思考がおかしいんだと言っても納得しない。母と同居しているから、以前にも増して意地になってるんじゃないかといって、大ゲンカになったこともあります」
いろいろ考えて、エイタさんは自分も行くからとカウンセリングにマミさんを誘った。2回ほど受けてみたが、まだ効果はわからない。
「ただ、客観性を持った人に話を聞いてもらうのは悪いことではないとマミも感じたみたい。自分が完璧を求めて頑張りすぎるのは、どうしてなのかと考え始めたようです。これを機会に、あまり頑張らないようになればいいんですけどね」
部屋が片付いていなくても、家族が元気で楽しく暮らせればそれでいいと思っているエイタさんと母親。一方、完璧にきれいにしていないと落ち着かないマミさん。両者がうまく折り合えるときがくるだろうか。